その世界大会への登竜門である全日本最優秀ソムリエコンクールが8月末、目黒雅叙園で開催された。いわば「日本一のソムリエ」を決める本大会は今年で10回目。日本ソムリエ協会が3年に1度主催し、優勝者にはアジア・オセアニア大会への出場権ならびに世界最優秀ソムリエコンクールの日本代表選考会への参加資格が与えられる。
最終日の準決勝・決勝戦は公開で行われ、準決勝を勝ち抜いた4名による舞台を、筆者も手に汗を握りながら観戦した。日本一、そして世界で勝つソムリエには、何が必要なのか。決勝戦で繰り広げられたドラマを見るうち、実はこの戦いには、ビジネスの世界でも求められる必須スキルがいくつも潜んでいるような気がした。
普段通りのパフォーマンスで栄冠
まずは今回のコンクールの結果からご紹介しよう。日本一の栄冠に輝いたのはマンダリンオリエンタル東京の野坂昭彦選手(47歳)。準優勝はコンラッド東京の森本美雪選手(36歳)、第三位には銀座ロオジエの中村僚我選手(26歳)が入賞。海外からの招待選手であるマレーシアのJustin Ho(ジャスティン・ホー)選手は、招待選手のなかでの最高点を獲得した。
優勝した野坂選手は本コンクールに挑戦して5度目。「いい意味で緊張せず、レストランでサービスするように普段通りの動きができた」と語ったように、落ち着いたパフォーマンスでベテランの意地を見せつけた。同じくコンクール常連で準優勝に輝いた森本選手は、なんと出産したばかり。育児の隙間でトレーニングを重ねたという。初出場の26歳の中村僚我選手は、仏留学帰りで語学も堪能な新進気鋭の若手ソムリエ。コンクールと同時開催された「WOSA Sommelier Symposium 2023」日本代表ソムリエの座を獲得し、南アフリカ渡航への切符をつかんだ。
本コンクールでは、難易度の高い筆記試験に加え、広範な飲料知識や試飲能力、サービススキルを審査される。仮装客に扮した審査員を前に、選手たちは舞台の上で実技審査やブラインドテイスティングなど様々な課題に挑むことになる。大勢の観客を前に、スクリーンに大きく映し出されながらサービスするプレッシャーは想像するに余りある。極限の状況で最高のパフォーマンスを出すためには、メンタルトレーニングも欠かせない。世界に挑戦するトップソムリエたちは、まさにアスリート並みのトレーニングを積んで試合に臨むのだ。