報道の通り、金正恩氏は全行程を列車で移動した。トラブルが発生すれば致命的な状態を招く空路を嫌った結果だ。さらに、高氏によれば、正恩氏はすべて、列車で寝泊まりしたという。もちろん、最大級の豪華な設備が整った特別列車だが、車中泊であることに変わりない。ロシアのプーチン大統領は13日の首脳会談の際、ハバロフスクやウラジオストクにあるプーチン氏が使う宿泊施設の利用を勧めたが、正恩氏は辞退したという。首脳会談の直前には、北朝鮮の随行者が、正恩氏が座る椅子を布で入念に磨く姿が捉えられた。高氏は正恩氏の心情について「ロシアや米国、韓国が暗殺の手を伸ばすのではないかと緊張していたのだろう」と語る。
正恩氏が心配するのも無理はない。北朝鮮の経済はどん底の状態が続いている。9月に入り、ジャガイモの収穫が始まり、短期的には北朝鮮内の食料価格は落ち着きを取り戻したが、穀物収穫量は豊作とまでは行かない模様だ。別の脱北者によれば、民心も悪化し、強盗や殺人などの重犯罪も増加しているという。この脱北者は「(北朝鮮では貴重品の)自転車に乗って、夜間1人では走れないほどの状態だと聞いている」と語る。
しかし、正恩氏は自分の身は心配しても、庶民の生活には心が行き届かない。今回の北朝鮮の報道を見る限り、正恩氏の関心は人工衛星やミサイルといった軍事にしかないようだ。朝鮮中央通信は、戦闘機のコクピットに乗って喜ぶ正恩氏の姿を配信した。こうした姿を見せている以上、何らかの軍事協力の成果はあったとみるべきだろう。他方、北朝鮮政府の経済部門で働いていた脱北者は「本来なら、食料支援のほか、北朝鮮漁民の拿捕が続いているロシア沿岸での共同操業問題、金正日時代に現地調査も行われたロシアと北朝鮮の鉄道連結の問題などを議論すべきだった。朝鮮中央通信をみる限り、こうした議題は隅に追いやられていたようで、失望した」と語る。