経済・社会

2023.09.23 08:00

娘を後継者候補に 自身は襲撃を恐れる金正恩氏、王朝末期状態の北朝鮮

Photo by Contributor/Getty Images

そして、正恩氏が自分のことしか考えていない現象の究極の姿が、9月9日の建国75周年を記念する軍事パレードで見られた。「キム・ジュエ」と呼ばれる正恩氏の娘が父親と共に登場した。北朝鮮軍幹部は、娘に対して、腰をかがめ、自分の息が娘にかからないように手のひらを口の前にあてて語りかけていた。正恩氏に対する態度と全く同じだ。10日の朝鮮中央通信は、娘を「尊敬するお子様」と呼んだ。高英煥氏によれば。「尊敬する」という敬称は、後継者に対して最初に使われる。金正日総書記も、最初は「尊敬する党中央」「尊敬する指導者」と呼ばれていた。高氏は「ジュエが後継者として確定したとまでは言えなくても、後継者の1人であることは間違いない」と語る。
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この動きは、正恩氏の妻、李雪主氏の働きかけのようだ。娘の扱いをどうするか決める権限があるのは、正恩氏夫婦しかいない。李雪主氏にしてみれば、健康に不安がある夫に万が一のことが起きた場合、何の公職にも就いていない子どもの行く末が気にかかる。早く、後継者としての地位を固めたいため、ジュエ氏を公の場所に出しているようだ。

この動きと対照的なのが、金正恩氏の実妹、金与正朝鮮労働党副部長の動静だ。与正氏は正恩氏のロシア訪問に同行したが、公式報道では一切名前が出てこない。朝鮮中央通信が公開した写真をみると、ようやくわかる程度の豆粒大の姿か、体が半分に切れているような中途半端な姿しか出てこない。高氏は「李雪主氏にしてみれば、何でも表に出たがる与正氏が目障りなのだろう」と語る。北朝鮮のロイヤルファミリーで公職に就いているのは、正恩氏と与正氏しかいない。与正氏の下で働く人間も多く、放っておけば、ジュエ氏に仇為す勢力ともなりかねないからだ。

高英煥氏はこう嘆いた。「庶民の暮らしそっちのけで、宮廷のなかで権力闘争を繰り返す。朝鮮王朝が繰り返してきた末期状態とそっくり同じだ」
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文=牧野愛博

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