「おぱんちゅうさぎ」が大ヒット 可哀想に!がZ世代の心をつかむ理由

田中友梨

「おぱんちゅうさぎ」はどうやって生まれた?

可哀想に!のアカウントでイラストの投稿を始めると、それがバズって仕事が舞い込むようになった。「おぱんちゅうさぎ」が誕生したのは、仕事が忙しくなり、通学時間を短縮しようと大学近くで一人暮らしを始めたことがきっかけだった。

「ある日、お風呂上がりの着替えとして用意していた服の中になぜかパンツだけがなくて、『おぱんちゅ……、おぱんちゅ……』と言いながら探していたんです。そのときに、ふと、これは儚くて良い語感だなと思って。私が一番儚くて悲しいイメージを持っていた生き物がウサギだったので、その2つを掛け合わせて、『おぱんちゅうさぎ』が生まれました」

「おぱんちゅうさぎ」は、一生懸命なのにどうにも不憫な姿が“可哀想”で面白く、つい応援したくなってしまうキャラクターだ。2022年1月にキャラクター専用のアカウントを立ち上げ、投稿を開始。文字を入れずにイラストだけでストーリー展開を見せている。

「キャラクターには性格や世界観などがあるので、できることが限られてきます。でもその分、見る人には先入観を持ってもらいやすくなるので、SNSに向いていると考えました。また、性格や世界観があることで、一番早く自分の作風を広められるだろうとも思いました」

ストーリーのアイデアは、日常で触れたものから得ている。

「たとえばテレビを見ていて、水が出てきたとします。そこからヒントを得て、まずはペットボトルを描き、連想ゲームのような形で”これに何を掛け合わせたら面白いか”を考え、ストーリーに仕立てていきます。アウトプットはイラストでも実写でもいいのですが、とにかくファニーなものを生み出して、皆に笑ってもらいたいんです」

「おぱんちゅうさぎ」は10~20代を中心に人気が広がり、新規投稿がなされるたびに万単位の「いいね」が押される。企業とのコラボグッズの発売や、ポップアップショップ、展覧会、コラボカフェなども展開し、いずれも大盛況だ。今年6月には韓国にポップアップショップを出展。その人気は海外にも広がっている。

そして、「おぱんちゅうさぎ」に次いで、2022年3月にはヨーグルトの妖精のキャラクター「んぽちゃむ」を生み出した。キャラクターグッズやポップアップショップも展開している。今年1月には韓国発ボーイズグループ「Stray Kids」の日本版MVのキャラクターデザインとアニメーションを担当するなど、クリエイターとして仕事の幅を広げている。

飽和するコンテンツの中でヒットさせるには

「おぱんちゅうさぎ」や「んぽちゃむ」がヒットした背景については、次のように分析する。

「今の時代はコンテンツが充実しているから、コンテンツを見る目が厳しくなっていて、少しでも『これ面白いでしょ』『こう言えば買うんでしょ』などと、相手を完全に理解したようにつくられたものは嫌がられる気がします。なので、いかに自然な表現にするかを大事にしています。例えばおぱんちゅうさぎのストーリーは、見る相手に考える余白を残すため、文字やイラストで語りすぎないようにしています。それが多くの方々に楽しんでいただけた理由なのかなと思います」

可哀想に!は、これからもクリエイターとして「面白い」を追求し続ける。

「創作以外の要因で、面白いと思えることが半減するのはつまらない。できるだけ穏やかに、面白く生きていきたい。そうやって生み出すコンテンツを通して、私のことを面白いと思ってくれる人が増えればいいなと思っています」

文=三ツ井香菜 取材・編集=田中友梨

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