ビジネスパーソンのパフォーマンス向上にもつながるこの技術について、現場の医師が語り合うシリーズの第3弾をお届けする。
屈折矯正にイノベーションを起こしたICLは、眼内にコンタクトレンズを埋め込むことで、自分の目でものが見える喜びを享受できる最先端の技術だ。
従来のコンタクトレンズのような着脱が不要のため、忙しいビジネスパーソンにもメリットが大きい。
そのICLの執刀を2万件以上手がけてきた「アイクリニック東京」院長の北澤世志博(以下、北澤)が、現場の医師と対話する連載企画。第3弾は、ICL認定医として関西を拠点に活躍する「レイクリニック」院長の松本玲(以下、松本)をゲストに迎えた。
―ICLのメリットを教えてください。
北澤:生活の質(QOL)を大きく高めます。
コストを気にされる方もおられますが、眼内コンタクトレンズは10年超の連続使用も可能であり、使い続けるとトータルコストはICLとコンタクトレンズとでほとんど変わりありません。
コンタクトレンズを着脱するのは非常にストレスであり、仕事にも支障をきたしかねませんが、ICLは夜もそのまま寝られますし、忙しいビジネスパーソンほどメリットは大きいと思います。
松本:生活の質と言いましたが、ICLは自分の目でものが見える喜びがずっと続くことが魅力です。以前はコスト面でレーシックを選ぶ方がいらっしゃいましたが、今は時代が変わり、自分により良いものを投資したいという方が増えているようです。
北澤:確かにコロナ禍であっても、ICLを希望する患者さんは増えました。
松本:私は2000年ごろ、勤務先の先生がレーシックを始めたことをきっかけに、独学で屈折矯正を勉強するようになりましたが、最初は、病気ではない目にメスを入れることに抵抗がありました。
北澤:白内障のような病気の治療は、その患者さまの低下した視力を改善するのが目的ですが、レーシックやICLによる治療は、本来病気ではない方、眼鏡やコンタクトを使えば見える方の生活の質を高めるのが目的なので、病気の治療とは性質が異なります。それだけに、医師には大きな責任が要求されます。
松本:自分のなかでパラダイムシフトが起こり、「より快適に見えるようになりたい」というニーズに応えていくことも、ひとつの医療であると考えるようになりました。
「レイクリニック」院長の松本玲
手術は協奏曲であり、ドラマである
北澤:1990年代以降に学会でいろいろ発表しているときに、松本先生もレーシックについて発表されていました。多数先生が参集するなか松本先生は特に光っていらっしゃったのが印象的です。
松本:関西人はしゃべってなんぼですから(笑)。北澤先生は屈折矯正のパイオニアですね。以前、執刀現場を見学させていただきましたが、1日に何十人もの方に執刀をされているのに、学会の講演と同じように、穏やかかつ明快にお話をしながらテキパキと施術されていました。私も患者さんに声をかけながら執刀するのですが、自分は間違っていないのだと再確認できうれしかったのを覚えています。
北澤:どんな手術でも患者さんは緊張しますから、それを和らげることが大事です。話しかけることによって、手術のやりやすさが変わります。
松本:私も「もう後半戦に入りました」「あと1分で終わりますよ」などと話しかけ、患者さんがリラックスできる環境づくりを心がけています。
北澤:スタッフも大事ですね。医師だけでは手術が成り立たないので、スタッフには、オペは協奏曲だと言っています。私が指揮を執るけど、スタッフがそれに合わせて演奏してくれないと、いい音楽にならない。みんなが同じゴールに向かって仕事をして、はじめていい手術になるのです。
松本:私も北澤先生と同じ感覚をもっています。スタッフには、手術はひとつのドラマだと言っています。私は演出家で、主人公は患者さま。スタッフは助演女優であり、みんなで患者さんのハッピーストーリーをつくり上げるのです。
患者が相談しやすい女性ドクター
北澤:女性の患者さんのなかには、女性のドクターの執刀を希望される方がいます。松本:屈折矯正をする方のなかには、普段の生活のなかでさまざまな薬を服用されている方もいらっしゃいます。手術を受けるのにそうした薬を服用していていいのかといったセンシティブな相談は、女性医師のほうがしやすいかもしれません。
北澤:女性にはメイクの問題もあります。
松本:まつ毛エクステやまつ毛パーマをしている女性は、メイクが落とし切れていなかったり、自分では気が付かない目のトラブルを抱えていたりするケースもあり、いろいろな要因からドライアイを引き起こしている人も多いです。そうすると視力がバラつくので、執刀前にまつ毛の拡大写真を撮り、汚れている患者さんは専用のシャンプーできれいにします。
「アイクリニック東京」院長の北澤世志博
あなたの目の主治医でありたい
―ICLを受けたい患者さんは、どのようにクリニックを選べばいいのでしょうか。松本:検査機器が充実していること。それを正しく取り扱える視能訓練士が在籍していることが重要です。そして、手術のやりっ放しは困るので、自己研鑽を生涯続けられる医師がいるクリニックがベストです。
北澤:まずは、クリニックのホームページをよく見て、医師の経歴や保証内容を確認することが重要です。また術前の説明だけではなく、術後のフォローも大切です。術後半年しかフォローしない、保証期間中でもレンズ交換が有料というクリニックもありますので注意が必要です。執刀技術面では、ICLの術式は白内障の手術に似ているので、松本先生もそうですが、その経験が豊富な先生なら安心です。
松本:加齢変化で何らかの病気にかかったときに、過去の手術でトラブルがあると、これから行う手術できれいなパフォーマンスを出すことができません。病気ではない目に対してだからこそ、私はきれいな執刀をしなければならないと肝に銘じています。
北澤:今後の目標をお聞かせください。
松本:メガネやコンタクトレンズがいらなくなると、生活の質も高まります。そのお手伝いをするため、ICLの執刀はこれからも積極的に続けていきたいです。それと同時に患者さんに対して「あなたの目の主治医として、定期的に検査させてください」と言い続けていきたいです。どんな病気も早 期に発見できれば対策は可能です。ICLの普及とともに眼科を受診する機会が増えたことは良いことです。定期的な検査が病気の早期発見に寄与しますから。
北澤:屈折矯正だけに特化してしまうと、ほかの病気が見られない。松本先生は、地域に根ざしていろいろな病気の治療をされておられるので、心強いです。
松本:災害や急なトラブルで、眼鏡やコンタクトを紛失して使えない状況になれば、相当な不便を強いられます。ICLなら「見える」ということに関しては不安がなくなるので、地方の先生こそ、ぜひ取り組んでほしいです。
スター・ジャパン
きたざわ・よしひろ◎福井大学医学部卒。東京医科歯科大学医学部眼科非常勤講師、東京医科大学客員講師を経て2019年、医療法人社団豊栄会「アイクリニック東京」院長に就任。
まつもと・れい◎宮崎医科大学卒業(現宮崎大学医学部)。京都大学医学部眼科学教室、兵庫県立塚口病院眼科、遠谷眼科などを経て2008年、医療法人社団医新会「レイクリニック」院長に就任。