本機能が実生活でどう使われるか、アップルのの構想は次のようなものだ。
あなたは見知らぬ都市で休暇を過ごしている。1日の始まりに、ヘルスケアアプリが、あなたの気分を記録するよう促す。あなたは「非常に快適」と答え、現在、休暇中であることをアプリに伝える。次に、さらに掘り下げた心の状態をパレットから選ぶ。おそらく「感謝」「穏やか」「愉快」などと感じているだろう。GPSに従って街の中をさまよい、気になる瞬間を写真に残していくと、ジャーナルアプリがあなたの1日の物語を綴ってくれる。
あわただしい観光スポットに遭遇すると、あなたの不安が心拍数を徐々に高めていく。その変化を検知したヘルスケアアプリは、もう一度あなたの気分を登録するよう促す。こうしたやりとりが続き、あなたの休暇の感情に彩られたタペストリーが作られていく。そして、家に帰って友人(あるいは心理学者)から旅行はどうだったかと聞かれたとき、「すばらしかった」というだけでなく、中身の濃い「感情のキャンバス」を見せることができる。
これに加えて、ヘルスケアアプリのユーザーは、PHQ-9スクリーニングツール(うつ病リスクに関する質問票)とGAD-7スクリーニングツール(不安障害リスクに関する質問票)を24時間利用できるようになった。テクノロジーとメンタルヘルスをこのように絡み合わせることで、アップルは他の巨大テック企業が追随するような前例を作り、デバイスの有用性に変革の波を起こそうとしているのかもしれない。
今後、最も期待できる2つの恩恵について、現在のメンタルヘルスの環境に基づいて説明する。
1. メンタルヘルスの早期介入と継続的監視に役立つ
メンタルヘルスは、社会に浸透する極めて重要な問題だ。National Alliance on Mental Illness(米国精神障害者家族連合会)による2021年の報告書によると、米国成人の5人に1人が、毎年心の病にかかっており、最も多く見られるのが不安と抑うつだ。アップルの「心の健康状態」機能などによるメンタルヘルスの民主化は、ゲームチェンジャーになる可能性がある。PHQ-9やGAD-7のような業界標準のスクリーニングツールを誰でも利用できるようにし、結果を容易に解釈できるかたちで提供することによって、ユーザーはメンタルヘルスの専門家を訪れ、自らの心配に関する個人に合わせた指導を受けるきっかけを得ることができる。