カリフォルニア州にある窓なしのテレビスタジオ。そこでは4シーズン目を迎えたドラマ「料理人への道(MasterChef Junior)」の収録が行われていた。製作の総指揮をとるカリスマシェフのゴードン・ラムゼイは毒舌ですぐに怒りを炸裂させることで有名だ。
以前、料理にカボチャの量が足りないと客に言われ「それならケツの穴にカボチャを詰め込んでやろうか」とやり返したこともある。
スコットランド出身で48歳のラムゼイは昨年6,000万ドル(約73億3,000万円)を稼ぎ、フォーブスの「世界で最も稼ぐ有名人100名」ランキングで21位にランクインした。シェフが稼ぎ出した金額としては過去最高額だ。アイドルオーディション番組「アメリカンアイドル」の人気に陰りが見える中、ラムゼイは4つの番組、Hell’s Kitchen、Hotel Hell、 MasterChef、そして MasterChef Juniorを抱え、Foxが制作するリアリティ番組における最大のスターだ。
ラムゼイはアメリカ、ヨーロッパ、アジア、中東に合わせて26のレストランを展開し、その売上げは数百万ドルにのぼる。ラムゼイブランドの根底にあるのは、信頼性だ。TVで人々を罵倒し、少ない量でいろいろ試せるテイスティングメニューとして、フォアグラやロブスターのラビオリ、ピジョンの取り合わせを230ドル(約2万8,000円)から提供している。
26歳でロンドンのAubergineの料理長に抜擢されたラムゼイは早くから株式投資に目覚め、経営陣を説得して25%の株式を手に入れた。その後、3年もたたないうちにミシュランガイドで2つ星を獲得することでその株価を急上昇させた。
「90年代初めには、最悪のシェフはイギリス人というジョークがありました。しかし、Aubergineはすぐ、6週間待ちの予約リストがあるような人気レストランに様変わりしました」とHarden’sというイギリスのレストランガイドを出版したPeter Hardenは話す。
その後、ラムゼイはAubergineを辞め、1998年に義理の父親と共にRestaurant Gordon Ramsayをオープンした。このレストランはミシュランガイドで最高の三つ星を獲得し、彼は500万ドルの売上の25%がのマージンを獲得した。グラスゴーや東京、ドバイ、ニューヨークにも出店した。
同時に、BBCが「ラムゼイの怒りの発火点」というドキュメンタリー番組をオンエアし、彼が厨房で怒りを炸裂させる様子にスポットライトを当てた。(典型的なシーンとしては、フロアマネージャーが空調をチェックしなかったことを叱り飛ばし「お前の脳ミソはどこにあるんだ?」と怒鳴りつけるなど)。彼の番組は視聴者に大人気となった。
その後、英国版「料理の鉄人」とも呼べるHell’s Kitchenや、罵詈雑言に満ちたアドバイスで業績不振の店を立て直すKitchen Nightmaresといった番組で料理番組としては未曽有の視聴率を記録した。
「今の時代になってやっと食べ物がTV番組で本当に面白い素材となりました。そしてゴードン・ラムゼイのような人物が現れてやっと料理番組がその記録を達成したのです」と、テレビ業界関係者は語る。
2009年の金融危機の影響で一時は負債も抱えたが、近年の景気回復と絶え間ないテレビ出演のおかげで、ラムゼイは再び絶頂期を迎えた。Foxのリアリティ番組では1話ごとに40万ドル(約4,900万円)以上という巨額の報酬を得ている。本業のレストラン経営では、現在26店舗を運営中。レストラン事業では1億5,000万ドル(約183億2,000万円)を売り上げ、5年前と比較すると270%増だ。
アジアや中東などへの海外展開も進めている。ラスベガスでは彼の名前を冠したバーガー店やステーキハウス、そしてパブの経営に手を貸し、見返りに彼は収益の6%から9%、売上の10%から15%を得ている。
毒舌で恐れらるセレブシェフは、にこやかに微笑みながらこう話した。「俺には悪い日ってのはないね。そんなのは昔の話さ。せかせか走り回ってストレスでげっそりしているシェフには見えないだろ?」と、ラムゼイは肩をすくめて見せた。