テキサス大学が2017年に発表した論文では、二酸化炭素排出量が最も少ない電源は、原子力と風力だとされている。二酸化炭素排出原単位は、発電所の耐用期間中の炭素排出量を予想される総発電量で割ることによって算出される。原子力と風力は、それぞれ電力1キロワット時当たりCO2換算で12グラムと14グラムだった。対照的に、世界最大の電力源である石炭火力発電は、1キロワット時当たりのCO2排出量が70倍以上になる。
それにもかかわらず、原子力発電は過去10年間、世界全体で年平均0.3%というわずかな伸びにとどまった。実際、原子力発電は昨年、4.4%減少している。
もちろん、1986年のチェルノブイリと2011年の福島という2件の重大事故を抜きにして、原子力発電を語ることはできない。これらの事故は当然のことながら、一般市民の原子力に対する不信感や恐怖心を助長した。チェルノブイリ事故が原子力発電の成長の軌道を劇的に変えるまでは、原子力に対する意欲は世界中で急速に高まっていた。それから25年後、福島の事故によって原子力発電は世界的に縮小した。
米国は世界の原子力発電の30.3%を占め、依然として世界第1位の座を維持しているが、同国では過去10年間、原子力発電の伸びはほぼゼロだった。そのような中、米ジョージア州のボーグル原子力発電所3号機が7月に商業運転を開始し、4号機も今年末から来年初頭の完成が見込まれている。米国で原子炉が新規建設されたのは、実に30年以上ぶりのことだった。
一方、中国は過去10年間で原子力発電量を3倍以上に増やし、世界で最も急速に成長している。現在の成長率を維持すれば、中国は向こう10年以内に米国を抜いて世界最大の原子力発電国になるだろう。
世界最大の石炭消費国である中国が原子力発電を増強しているのは心強い。世界第2位の石炭消費国であるインドも、中国より遅いペースではあるが、原子力発電を増やしつつある。
国際エネルギー機関(IEA)は、2050年までに世界の原子力発電量を倍増させなければ、温室効果ガスの排出を正味ゼロに抑えることはできないとみている。過去を変えることはできないが、原子力に対する市民の姿勢を改善する努力はできる。チェルノブイリや福島のような災害を起こさない原子力発電所を設計・建設し、運転することは可能だ。原子力に対して懐疑的な市民を納得させるには、当然ながら時間がかかる。そのためには資金を投入しなければならない。そうしなければ、世界全体のエネルギー需要の伸びや、再生可能エネルギーが需要の伸びに追いつくことすらできないことを考えると、世界の炭素排出量を本格的に削減することは乗り越えられない壁になってしまうかもしれない。
(forbes.com 原文)