フランス南岸コートダジュールに位置する面積約2平方キロの極小国家であるモナコは、年間300日以上の晴天に恵まれ、欧州各国の首都から飛行機で簡単に行き来でき、有名なムラトグルー・テニスアカデミーをはじめとする優れた練習施設にも車で1時間以内の距離にある。
一流のスポーツ選手や超富裕層にとっては別の利点もある。モナコはタックスヘイブン(租税回避地)であり、個人所得税や資本利得税、投資税がかからない。これは、過去1年間の収入が3840万ドル(約57億円)と推定され、フォーブスの「世界で最も稼ぐテニス選手ランキング」で1位に君臨するジョコビッチのような選手にとっては数百万ドル(約数億円)もの節税になるのだ。
テニス界では、四大大会(グランドスラム)通算24勝目を挙げた世界ランキング1位のジョコビッチのほか、ロシアのダニイル・メドベージェフ(世界ランキング3位)、デンマークのホルガー・ルーネ(同4位)、ギリシャのステファノス・チチパス(同5位)、イタリアのヤニック・シナー(同7位)らがモナコを主たる居住地としている。ルーネはフォーブスの取材に対し、次のように語った。「私はデンマーク出身だ。すばらしい国だが、テニス選手がそれほどいるわけではない。だから私にとって、ここ(モナコ)でいっしょに練習できる選手や施設は本当に重要なのだ。このような機会はデンマークでは得られない」
もちろん、ジョコビッチはこうした経済的な利点を享受した最初のテニス選手ではない。ウィンブルドン選手権で5連覇、全仏オープンで6勝したスウェーデンの伝説的テニス選手、ビヨン・ボルグは1970年代後半から10年以上をモナコで過ごした。26歳で現役を引退した後、ボルグはファッション事業に失敗し、スウェーデンの首都ストックホルムに戻った。同国政府から4万ドル(約590万円)の追徴課税を求められたが、かろうじて自己破産は免れた。
モナコには、マックス・フェルスタッペン、ランド・ノリス、シャルル・ルクレールといった一流のフォーミュラワン(F1)ドライバーらも住んでいる。これはモナコグランプリの練習のためだけではない。そのほかにも、サッカー・イングランド・プレミアリーグのエバートンを所有するファルハド・モシリ(推定純資産31億ドル、約4600億円)、ベルギーの砂糖王エリック・ウィトゥク(同80億ドル、約1兆1800億円)、イスラエルの不動産・海運業界で名を馳せるエヤル・オフェル(同194億ドル、約2兆8700億円)など、スポーツ界の内外を問わず、多くの大富豪がモナコに居住している。