「小江戸」として知られる、埼玉県きっての観光都市・川越。市内に多く残る歴史的遺産と都心から好アクセスの立地を強みに、国内外から多くの観光客が訪れている。かつては城下町として栄え、近年は商業・工業・農業がバランスよく発展してきた市の長が、市制施行100周年から次の100年に向かうターンで、新たな発展への道筋を語る。
「川越まつり」3年ぶりに復活
蔵造りの町並みに、鐘の音が響く。「時の鐘」のシックな鐘楼を見上げながら、川合善明は静かに語り始めた。川越に生まれ育ち、時を告げるこの鐘音に親しむ。幼い頃から慣れ親しんだ「川越まつり」。精巧な人形を乗せ、町中を曳かれる絢爛豪華な山車に魅了された。「『時の鐘』は、環境省が選定した『残したい日本の音風景100選』のひとつ。蔵造りの町並みを歩いていると、鐘の音が良く似合います。鐘楼は江戸時代の寛永年間、ときの川越城主である酒井忠勝が建てました。こちらは明治期の川越大火後に再建されたもので、現在も川越のシンボルです」
いわゆる、歴史まちづくり法のもと、埼玉県内で唯一、歴史的風致維持向上計画の認定を受けた都市でもある。370年以上も続く川越まつりをはじめ、一番街エリアに続く蔵造りの町並み、川越城本丸御殿や川越大師喜多院──「小江戸」を象徴するスポットは数多い。「歴史の集積によるアセットこそ、このまちの誇れるものだ」と、川合のことばにも力がこもった。
「2022年の観光客数は約551万人で、最も多かった2019年の約776万人の7割まで回復しました。コロナ禍では年間400万人未満まで落ち込んでいましたが、3年ぶりに川越まつりが開催され、外国人観光客の入国制限も緩和。観光面も復活の兆しが見えてきました。アジア圏から来た観光客の姿が目立ちます」
2012年には観光庁「訪日外国人旅行者の受入環境整備事業」の地方拠点に。東京オリンピックのゴルフ競技会場が市内の霞ヶ関カンツリー倶楽部となったこともあり、インバウンド受け入れ体制の整備が加速した。川合市政では多言語への対応やキャッシュレス決済、Wi-Fi基盤の整備など、グローバルな観光都市を目指した施策が進められている。
川越市中心部は、昭和の町並みから大正ロマン、そして江戸情緒が薫る蔵造りの町並みと、江戸から現代までの連続性を感じさせる動線がある。その先にたたずむのが、若者に「パワースポット」として人気を集める川越氷川神社だ。
アジア圏の観光客や国内の若年層を惹きつけるのは、川越氷川神社の「縁むすび風鈴」。こちらは1500個以上の江戸風鈴が境内に飾られ、涼やかな音色が響き渡る夏の風物詩だ。ライトアップもあり、SNSではインスタ映えするイベントとして知られる。(2023年は終了)
「太平洋戦争で空襲の被害をほぼ受けなかったこともあり、古くからの町並みが残されました。市民も、祭りやランドマークである時の鐘などを大切にしながら、文化を守り続けています。そうした先人たちの積み重ねが、SNSを通じて国内外に発信され、さらに多くの方が集まる好循環に。しかし、私たちも観光のみに頼るわけにはいきません。川越市のもう一つの強み『商工農のバランス』を活かしながら、将来への道筋を描いていければ」