欧州

2023.09.17 08:00

ウクライナが露セバストポリ海軍基地への攻撃で狙った大きな成果

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乾ドック内の軍艦への攻撃はともかく、重要な乾ドックのポンプ室や扉、乾ドック自体にミサイルを1、2発撃ち込み、さらには替えがきかないこれらの施設の再稼働を難しくするのは簡単だっただろう。
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ロシアは遠く離れたロシア南部のノボロシスク港にも利用可能な乾ドックを有している。だがそれは浮き乾ドックで、設計上、乾ドックのように戦闘による損傷の修理や大規模な改修を効率的に行えない。

セバストポリはいま間違いなく攻撃にさらされており、ロシアがダーダネルス海峡とボスポラス海峡の軍艦の通過に関してトルコが持つ管理権を反故にするか、ロシア領の黒海沿岸のどこかに船底保守を行うドックや別の恒久的な乾ドック施設を建設するかにかなり必死に取り組んでいることをアナリストらは予想すべきだ。

大問題を抱える黒海艦隊

ロシアの防空管理能力の欠如により、ウクライナは黒海のロシア軍を少しずつ追い詰める新たなチャンスを手にしている。そしてロシアは、艦船が大規模な修理を受けている間はかなり攻撃されやすいことを知っておくべきだ。

米国が2020年に失った12億ドル(約1770億円)の水陸両用の強襲揚陸艦ボノム・リシャールは、修理を受けている艦船での消火活動の難しさを示した。修理中の艦船に乗組員はおらず、燃えやすいものが多い。そして往々にして火災を1カ所に閉じ込めることができないため、修理作業場での火災は最も消火が難しいものの1つだ。
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今回の攻撃の対象は特に興味深い。

ロシアはここ数カ月で2隻目のロプーチャ級揚陸艦を失った。アゾフ海を通ってクリミアに物資や装備を運ぶ能力を確実に失いつつあり、クリミアを切り捨てる可能性もある。

ウクライナはこれらの兵站支援船を標的にしている可能性がある。ロシア海軍は黒海に数隻の古いアリゲーター級揚陸艦、数隻のロプーチャ級揚陸艦、そして1隻のイワン・グレン級揚陸艦を保有している。これらの艦船はそれ自体が陸上を攻撃し得る脅威的な存在だ。ウクライナでの戦争が始まる前、さほど大型ではない揚陸艦6隻が黒海に向けて出航したとき、バルト諸国はパニックに陥った。

ロプーチャは最大10両の主力戦車と兵士約340人を輸送することができるため、これらの輸送船は、スペア部品不足で使われていないということでなければ、今年後半にクリミアがロシアから切り離されたときは重要な資産となる。

ディーゼル潜水艦のロストフ・ナ・ドヌーが今回の攻撃で失われた可能性があることはことさら興味深い。ロシア海軍の黒海潜水艦隊は、海洋で周囲に脅威を与える中心的な存在だ。気づかれることなく貨物船を撃沈したり、巡航ミサイルのカリブルを発射したりすることができる。また、偵察を行い、奇襲部隊を上陸させることも可能だ。

建造されてわずか10年のロストフ・ナ・ドヌーは、比較的近代的なキロ級潜水艦だ。今回の損失は痛手だが、修理のサポートを渇望している黒海艦隊がウクライナやグルジア、トルコ、その他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国にロシアが欲しがっている海域を譲り渡すという、今後の事態を暗示するものにすぎない。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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