カーボンクレジットとは、二酸化炭素やメタンなど、地球温暖化を引き起こすガスの排出削減量を売買する取引のことだ。サグリが農地の排出削減量を計測し、認証機関に裏付けとなるデータを提出し、カーボンクレジットを創出。発行されたカーボンクレジットを同社が企業に販売し、販売益を農家に還元するという仕組みで、農家の新たな収益の柱にしていくという。
カーボンクレジットは、民間の認証機関も増えているが、その信用性に疑問を呈する声もある。同社はどのような戦略で市場を開拓するのか。
営農指導に限界感じ「カーボンクレジット」へ
サグリは、今年1月からケニアを中心とした東アフリカに本格展開し、同月にはアジアの事業を統括するシンガポール拠点も設立した。同社は2018年の創業以来、「営農指導」を展開してきた。営農指導とは、デジタルツールの活用などで農作業の効率化や農家の収益力の向上を目指すことをいう。サグリはその目標に沿って、新興国の農業指導者向けに、農家の収益化につながる情報を提供してきた。
しかし、営農指導を普及させるには時間がかかる。 サグリCEOの坪井俊輔はこう話す。
「アジアもアフリカも大きな地域ですよね。それを地道に1つ1つ、農家を回るということに限界を感じていました。これまで営農指導は何十年もやられていますが、現場の人のデジタルリテラシーの壁もあって、普及が進まないのが現状です」
そうした状況のなかで目をつけたのがカーボンクレジットだという。
2020年10月に当時の菅義偉首相がカーボンニュートラル宣言をして以来、日本でも脱炭素化に向けて社会が動き始めた。2022年4月からは、東証プライム市場の企業に対し、気候変動に係るリスクについての情報開示が義務化され、事業活動で排出される二酸化炭素量の算出などが進んでいる。
「企業がCO2の排出量を計測するようになってきた。その次に、CO2を減らそうとするわけですが、限度があります。仮に80パーセント減らせたとして、残り20パーセントをどう埋めるかというときに、『カーボンクレジット』を購入して相殺することになります」
こうした流れを受け、サグリは、新興国の農家のクレジットを先進国の企業に販売するという「循環」を生み出そうと考えたというのだ。
英ガーディアンが登録プロジェクトの不正確さを指摘
現在、脱炭素を実現する方法としては、植林など森林の整備によるCO2の相殺や、電力使用量や化学肥料を減らすことでCO2を抑えるといったものがある。民間の認証機関では、CO2削減量の算定式を独自に確立し、それに基づいてクレジットを発行。各機関はさまざまな排出量削減プロジェクトを作り、国の認証制度に登録する。クレジットの認証や発行をめぐっては、多くの企業が参入し、市場が盛り上がりを見せる一方で、サグリの坪井は「民間認証登録プロジェクトの多くが信用できないもの」と断言する。
実際にイギリスの大手メディア「ガーディアン」は、今年1月、世界有数の民間認証機関「ヴェラ」が発行する「森林カーボンクレジット」の90パーセント以上が、本物の炭素削減量ではないと指摘している。