問屋の仕事は、総合監督
1927年の創業から本職用高級包丁を主に、家庭や調理師学校など幅広い対象に向けた包丁の製造・販売を手掛けてきた山脇刃物製作所。鎌倉時代の刀工の名を冠したメインブランド「郷右馬允義弘(ごううまのすけよしひろ)」は日本のみならず海外でも高い評価を受け、この包丁を求めて世界中の料理人が同社を訪れる。
「うちはいわゆる問屋にあたりますが、問屋といってもただ商品を卸して販売するというのではなく、商品企画から職人への発注、取りまとめ、流通までをコーディネートする製造問屋です。職人さんにはそれぞれに得意分野があるのでそれをしっかりと見極め、商品に合わせてその都度ふさわしい職人に依頼する。いわば、総合監督のような仕事ですね」と山脇さん。
「最終の仕上げである柄付けもここで行います。柄付けという仕事は鍛冶や刃付けに比べると軽視されがちですが、せっかくの刃を生かすも殺すも仕上げ次第。刃を歪みなく柄に垂直に差し、重心のバランスを整えるというのが職人技。これは何十年と経験を積んで得られる数値化できない感覚的なもので、機械には真似ができない。この仕事の面白いところでもあり、技を伝承するという意味では難しい部分でもあります」
品質を維持するための選択
山脇さんが同社で働き始めたのは25歳の頃。当時勤めていた商社が倒産し、仕方なく家業に入った。働き始めた頃は包丁業界の狭さや職人世界のしがらみが面倒で、仕事が楽しいとはまったく思えなかったという。
「意識が変わり始めたのは数年後。努力しないと状況は何も変わらないことをだんだんと痛感し、ようやくこの世界で真剣にやっていくぞという覚悟が固まりました」
仕事への取り組み方が変わると、この世界で戦ってきた父の苦労がよく分かるようになったという山脇さん。父親への尊敬の気持ちが仕事へのモチベーションとなり、これまでマイナスにしか見えなかった問題は、挑戦すべき課題に変わったという。不思議なことに、嫌で仕方がなかったこの世界の狭さにも愛着を感じるようになっていた。この会社を、この包丁業界全体を、もっと良くしていきたい。そう考えるようになったのは、仕事を始めて10年目の頃。最初のターニングポイントだった。