教育

2023.10.04 18:15

ティム・クックもピチャイも。世界のリーダーはなぜ「教官」でなく「共感者」か

石井節子

Getty Images

岡本純子。「伝説の家庭教師」と呼ばれるエグゼクティブ・スピーチコーチにして、コミュニケーション戦略研究家である。これまでに1000人を超える社長や企業幹部に、秘伝のコミュニケーションノウハウを伝授。その劇的な話し方の改善ぶりと実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれ、引く手数多の大好評を博すカリスマだ。

大企業トップなどエグゼクティブへのマンツーマンのみならず、昨年5月からは一般向けに「世界最高の話し方の学校」も開校。菅・前首相を特別講師に招くなどで話題を呼んだ。今月はその第5期が始まり、のべ100人の生徒たちが参加する人気校に育っている。最新書籍『世界最高の伝え方』もたちまち重版の好調ぶりだ。

ここでは同書から、「伝説の家庭教師」が開陳する秘技、「7つの言い換え」の一部を以下、転載で紹介する。


ティム・クックもサティア・ナデラも、スンダー・ピチャイも


リーダーは「強権・教官型」から「共感型」へ。

これはグローバルの流れです。かつてはアメリカでも、アップルのスティーブ・ジョブズやGEのジャック・ウェルチのような「命令・強権型」リーダーが多くいましたが、いまは社員の納得と自立を導き出す「対話・共感型」が主流です。

実際に、アップルのティム・クック、マイクロソフトのサティア・ナデラ、グーグルのスンダー・ピチャイなどは、まさに社員に寄り添い、背中を押す「共感」系リーダーの代表格。

イーロン・マスクのような例外もいますが、気がつくと、アメリカの企業リーダーはほとんどが「共感型」にシフトしています。

この潮流が、日本にも押し寄せている、ということなのです。

その背景には、「〇〇ハラ」などの強権的手法に対する目が厳しくなり、かつてのような「叱責」型コミュニケーションができなくなったこと、情報が氾濫するソーシャルメディア時代に、心に響かない一方通行の「命令型」が通用しなくなっていることなどが挙げられます。

前述した「心理的安全性」や「エンゲージメント」などを実現するためにも、対話力・共感力がますます重要になってきているというわけです。

説得したいなら「話すな」


「言えば伝わる」「言わなくても伝わる」神話のもとで、日本ではコミュニケーションの「科学」が発展してきませんでした。

結果的に、多くの誤解や間違ったやり方がまかり通っています。

たとえば、雄弁に、論理的に伝えれば、人の心は動く......。私もかつてはそんな思い込みを持っていました。

しかし、ハーバードロースクールで交渉術・説得術を学んだときに、金づちで頭をぶん殴られたような衝撃を受けたのは、ペラペラと饒舌で話がうまいことと、説得力はまったく別物であるということでした。

教えられたのは、「人を動かす、説得したい」と思うのであれば、むしろ「話すな」ということ。

人の心は情報(information)ではなく、感情(emotion)で動きます。

多くの人はロジックやファクト、情報で人を説得できると勘違いしていますが、エラそうに自分の思い込みや正しいと思う情報を垂れ流したところで、相手の気持ちの針はピクリとも振れないのです。

話すより聴く。「対話」で動かす相手の心


ハーバード大学やFBIなどで教えられる説得術は、次の5つのステップから成り立っています。

ハーバード流説得術


1. アクティブ・リスニング

相手の話をしっかりと聴く。
問いかけ・質問をして訊く。

2. 共感
相手の気持ちを理解し、寄り添う言葉をかける。

3. 相互信頼
相手から信頼を得る。

4. 影響
相手に望む行動をすすめる。

5. 行動変容
相手が行動を変える。

とくに大切なのが最初のステップ「1. アクティブ・リスニング」と「2. 共感」。

相づちを入れながら、しっかりと話を聴き、質問をして、訊く。そして、相手の気持ちや感情に寄り添い、共感をしてあげる。

「大変だったね」「つらかったね」「しんどかったね」「よくがんばったね」......。

そこで、ようやく心がつながり、信頼を獲得できます。

「信頼」なくして「説得」はないのです。

『世界最高の伝え方』(岡本純子著、東洋経済新報社刊)

世界最高の伝え方』(岡本純子著、東洋経済新報社刊)





(写真=曽川拓哉)


岡本純子(おかもと じゅんこ)◎「伝説の家庭教師」と呼ばれるエグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション戦略研究家。株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。英ケンブリッジ大学院国際関係学修士。米MIT比較メディア学元客員研究員。1991年、読売新聞社に入社後、経済部記者として日本のトップリーダーを取材。アメリカでメディア研究に従事したのち、電通パブリックリレーションズ(現電通PRコンサルティング)にて、企業経営者向けメディアトレーニング、プレゼンコーチングに携わる。2014年、再び渡米し、ニューヨークで「グローバルリーダー」のコミュニケーション術を学ぶ。新聞記者時代に鍛えた「言語化力」「表現力」、PRコンサルタントとして得た「ブランディング」のノウハウ、アメリカで蓄積した「パフォーマンス力」「科学的知見」を融合し、独自の「コミュニケーション学」を確立。現在は、日本を代表する大企業のリーダー、政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチ等のプライベートコーチング」に携わる。これまでに1000人を超える社長・企業幹部に、秘伝の「コミュニケーションレシピ」を伝授。その「奇跡的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれ、好評を博している。2021年、「今年の100人」として「Forbes JAPAN 100」に選出。2022年5月には、次世代グローバルリーダーのコミュ力育成のための「世界最高の話し方の学校」を開校した。著書に同書のほか、シリーズ累計20万部を突破した『世界最高の話し方』『世界最高の雑談力』(共に東洋経済新報社)などがある。

文=岡本純子

ForbesBrandVoice

人気記事