「ボイコタワー」と呼ばれているこれらの石油掘削施設は、ウクライナ軍が昨年の夏に奪還したズミイヌイ(スネーク)島の東40キロメートルほどにある。
ウクライナの特殊部隊は最終的にそこに乗り込み、ロシア軍のレーダー1基やロケット弾数発を鹵獲(ろかく)した。作戦中、ロシア軍のスホーイSu-30戦闘爆撃機から攻撃を受けたものの、しのぎきった。逆にSu-30はウクライナ側が応酬した携帯式対空ミサイルで損傷し、離脱を余儀なくされたもようだ。
ウクライナ国防省情報総局は、この作戦によってボイコタワーを恒久的に占拠したと述べている。施設はウクライナの所有者からロシア軍が奪い取っていたものなので「解放した」といったほうがより正確だろう。情報総局はボイコタワーの奪還作戦は「ウクライナにとって戦略的な意義があった」とも説明している。
この作戦による結果については、ウクライナ側が少なくとも当面は、ロシア軍によるボイコタワーの軍事目的での利用を「拒否(denial)」できるようになったというのがさらに正確だろう。ウクライナとロシアの黒海でのパワーバランスが大きく変わらない限り、どちらの側もこれらの石油掘削装置を完全には支配できない可能性が高い。
とはいえ、これがウクライナにとって一種の勝利なのは確かだ。ウクライナは黒海西部のロシア軍の防御設備を取り除くことで、すでに不自由な状態にあるロシアの黒海艦隊がウクライナ近海で作戦行動することを、ますます危険にしたからだ。
ウクライナ側は同時に、黒海に面するオデーサやドナウ川の港を発着する穀物輸送船が比較的安全に通航できる水域も確保しつつある。「これらの掘削施設に配備していた監視設備を奪われたロシアは、黒海海域を完全に支配する能力を失う」と情報総局は指摘している。