健康

2023.09.12

下剤が「格安やせ薬」として米国で品薄に その危険性とは

米国で市販されている下剤「ミララックス」(Michael Moloney / Shutterstock.com)

これは二重の意味でたいへんな「動き」だ。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのレイチェル・ウルフ記者が報じているところによると、米国ではいま、腸の動きを促進する薬、つまり下剤が不足しているらしい。下剤がこのところ店の棚からすぐなくなるのは、糖尿病の薬で減量にも使われている「オゼンピック」の安上がりな代替品、いわば「格安オゼンピック」として、下剤がTikTokの新たなトレンドになっていることが一因かもしれないという。

TikTokerたちは、有効成分セマグルチドを含む処方薬のオゼンピックよりもコストパフォーマンスのよい「やせ薬」として、「ミララックス」「エクスラックス」「グライコラックス」といった市販の下剤の使用を宣伝している。だが、下剤は便通をよくしてくれはしても、残念ながら体重を減らすのによい方法ではない。

TikTokで「#GutTok」というハッシュタグを検索すると、計11億回以上再生されている動画のなかで、人々が下剤についてどんなウンチクを垂れているのかわかる。動画の多くは、ポリエチレン・グライコール3350(ミララックスの一般名)を、ふつうに便通がある人も定期的に摂取するよう勧めている。たとえば「ミララックス・マンゴー・ミラクル」スムージーなるものを紹介しているものもある。もっとも近い将来、ミシュランの星つきレストランのメニューに「ミララックス入り」という説明を目にすることはないだろうが。

ポリエチレン・グライコール3350は、「浸透(osmosis)」という現象を利用してウンチを出やすくする「浸透圧性下剤」だ。濃縮された物質であるポリエチレン・グライコール3350は、腸内を通るものと腸を覆っている細胞の間に浸透圧の勾配をつくりだす。これによって、水分が腸壁から吸収されるのではなく、腸内のウンチにとどまるようにする。その結果、ウンチは柔らかくなり、体外に出やすくなるというわけだ。

容易に想像できるように、こうした下剤を使えばすぐに体重を多少減らすことができる。しかし、この体重減少は水増しならぬ「水減らし」されたものなのが実態だ。つまり、減ったのはほとんどが水分で、体脂肪ではない。十分な水分をとれば体重はまたすぐに元に戻るだろう。服を脱いで「はい、やせました」と言うのとあまり変わらないということだ。

ポリエチレン・グライコール3350は本当の減量に役に立つものではなく、それどころか、服用後に水分を補給しなければ脱水状態を招いてしまう。そして、脱水状態になるのは決していいことではない。「服が着られるようになった。頭痛、のどの乾き、体のだるさ、肌の乾燥、めまい、気を失いそうな感覚があるのを除けば問題ない」などと言いたい人はいないだろう。
次ページ > 使い続けると「下剤依存」になるおそれも

翻訳・編集=江戸伸禎

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事