食&酒

2023.09.15 12:30

酒や料理の味がガラリと変わる。モノとヒトを紡ぐ「言葉」の力

言葉によってモノとヒトとの関係にストーリーを紡ぎ出す。これからの時代に大切なコピーライティングの本質とは。マクアケ創業者による好評連載第33回。
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先日、大好きな酒蔵のひとつである黒龍酒造(福井県)の次期蔵元・水野真悠氏と一緒に、さまざまな種類の酒を料理に合わせて飲ませていただく機会があった。流石のおいしさに舌鼓を打ちながら、楽しく酔いが進む。同じ酒蔵がつくる酒でも、製造方法や米の違いなどによって、その味や香りや感触はまるで別物のように変わる。こうした「おいしさ」を数値や指標で表すのは常々難しいと感じているが、特に酒は、どんな料理と一緒に飲むか、誰と飲むか、どこで飲むか、どんな環境で飲むかなど、同じものを口にする場合でも、味の感じ方は違ってくるものだ。

今回は蔵元さんと一緒に飲めるという、とても贅沢な経験をさせていただいたわけだが、そこであらためて気づかされたのは、「言葉」が付与する力だ。同じ酒や料理でも、水野氏が味わい方やコンセプト、込められた思いなどを言葉によって説明してくれたことで、酒と料理の相性や関係性が紡がれ、いざ口にしたときの感じ方がガラリと変わった。きっと多くの人が似たような経験をしたことがあるのではないだろうか。それはまさに、食のおいしさに絶対数値が存在しないことを示している。

さまざまな研究機関がおいしさを数値化する研究を進めていて、塩味や甘味や酸味などを数値化し、総合評価することは可能かもしれない。しかし、実際に感じる「おいしさ」という概念は、美しさの優劣を数値化する難しさと同じくらい、主観的かつ生まれた国や地域などの背景によっても異なる複雑で繊細なものなのではないか。そういった極めて曖昧な「おいしさ」という世界のなかで、言葉はその味を表現し、さらにそれと一緒にいただく料理との関係性を定義する。それによって威力は大きくなり、食事をとても良い体験に変えてくれるわけだ。
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言葉の力によって、実際に食べたり飲んだり使ったりするものとの関係性が変わるということは、マーケティング業界でいうところのコピーライティングの概念に近いだろう。
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文=中山亮太郎 イラストレーション=岡村亮太

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