しかし、その二つの人材の違いは、才能の違いでも境遇の違いでもない。実は、仕事において、一つの習慣を身につけているか否かの違いである。
これは、日本語で「振り返り」や「反省」という言葉にも訳される英語であるが、この「リフレクション」は、職業人として、人間として、成長し続けていくための、極めて科学的・合理的な技法である。
具体的には、一つの仕事やプロジェクト、商談や会議が終わった後、自分の「スキル」(技術や技能)の視点からの振り返りと、「マインド」(心得や心構え)の視点からの振り返りを行うことであるが、例えば、「この仕事の時間配分は適切だっただろうか」や「自分の説明は、顧客にとってわかりやすかっただろうか」といったスキルの振り返りや、「あの場面では、仲間の気持ちをもっと考えるべきだったのではないか」や顧客に対して、少し上から目線になってしまったのではないか」といったマインドの振り返りを行うことである。
実は、このリフレクションを習慣にして必ず行うだけで、その人材の成長速度は何倍にもなる。しかも、1時間の仕事や商談のリフレクションを行うのに1時間かかるわけではない。わずか5分のリフレクションを行うだけで、自身の技術や技能、心得や心構えについて、問題点や課題を発見し、その克服を通じて成長していくことができる。
筆者は、若手社員として営業の修行をした時代に、商談から帰る電車やタクシーの中で、同僚と、このリフレクションを行うことを習慣とした。そして、家に帰ってからも、業務日誌を前に、リフレクションを書き出すことを習慣とした。このとき、自然に、前者では、技術や技能の振り返り、後者では、心得や心構えの振り返りが中心となった。
実は、筆者が、大学で研究者の道を歩み、その後、同期に7年遅れて実社会に出た不利を超えることができたのは、この習慣のお陰であるが、このリフレクションの技法は、実社会における学びだけでなく、大学や専門学校で、スキルやマインドを学ぶときにも、極めて有効なものであり、誰もが習慣として身につけるべき優れた「成長の技法」に他ならない。そのことは、後年、大学院で教育者として学生に向き合った経験からも、確信を持って言える。