そもそも、米国社会では、少数人種および女性を、民間企業や官庁で積極的に雇用、昇進させることを推進してきた。これまで、長年、社会経済的差別を受けていたことを是正するための措置である。組織における多様性が重要だということは、少数人種の登用と表裏一体である。そして、少数人種の人たちの質の高い雇用に結びつくよう、高等教育の機会を与えよう、として大学入試におけるアファーマティブ・アクションは重要だと考えられてきた。
ところが、このような人種情報を入試審査に反映させて、少数人種を大学入試で優遇するのは、アメリカ合衆国憲法修正第14条の「平等保護(EqualProtection)」に反するとして、アジア系学生が中心となった団体(Students for Fair Admissions)が、ハーバード大学とノースカロライナ大学を訴えていた。
大学進学適正試験(SAT)の平均点では、アジア系が、少数人種のみならず白人を上回ることもあり、優秀なのに一流大学への入学審査で差別を受けていると訴訟を起こしたのだ。この訴訟について、6月29日にアメリカ合衆国最高裁判所が、人種情報を入試審査に反映させることは違憲であるという判決を下した。判決は保守系判事6人が違憲、リベラル系判事3人が合憲の判断をし、きわめて分断が際立つ判決となった。
経済学においては、アファーマティブ・アクションは、社会的に有益な人材育成の手段であるという考え方が主流である。恵まれない教育環境におかれてきた高校生は「伸びしろ」が大きいはずなので、同じ点数であれば、優先して合格させる(ゲタをはかせる)にしても、入学後には優秀な成績で卒業できるはずだ、という仮説を立てることができる。そうすると、アファーマティブ・アクションは、社会的に人材を適材適所に配置することに貢献することになる。