しかし、これとは別に「車両本体盗難」と呼ばれる被害がある。車をそのままの状態で持ち去って、乗り回して遊んだり、国内外で不正転売したりするものだ。米国の保険業界団体が設立した道路交通事故データ研究所(HLDI)がまとめた車両本体盗難のランキングでは、ダッジの「Challenger」や「Charger」などの高馬力のマッスルカーの被害が急増し、トップに躍り出ている。
特に「Charger SRT Hellcat」は、車両本体盗難の保険申請件数が、被保険車両年(※)1000年当たり25件と、2020-22年モデルの全国平均の60倍以上の頻度で被害に遭っている。(※被保険車両年=車1台が保険に加入していた1年を1単位として数えたもの)
HLDIのマット・ムーア上級副社長は「Hellcatを所有しているなら、家の前の置き場所には注意したほうがいい」と助言。「これは信じられない数字だ」と述べている。
Hellcatの車両本体盗難は、ここ数年で急増した。HLDIが新型コロナウイルス流行以前の2019年に発表したレポートによると、2016-18年モデルで車両本体盗難が最も多かったのは「BMW 3」シリーズで、被保険車両年10万5000年近くで請求はわずか1件しかなかった。
また、起亜(キア)や現代(ヒョンデ)の盗難被害も急増している。この背景には、イモビライザーと呼ばれる防犯装置を搭載しない両社のモデルのエンジンを始動させて持ち去る方法が、ソーシャルメディアで出回っていることがある。「Range Rover」などの高級SUVもまた、窃盗犯の間で人気がある。
一方、車両本体盗難の報告が少ないモデルの多くは、テスラの4モデルを含む電気自動車(EV)だ。HLDIは考えられる理由として、EVは夜間、充電などのために明るく安全な場所に駐車されることが多いと指摘している。また、ゼネラルモーターズ(GM)車も盗難被害の頻度が低いものが多かった。
盗難被害に遭う可能性を低減するには、車は常に明るい場所に駐車し、その場を離れる際にはロックし、キーは収納ボックスやカップホルダーに残しておかないこと。また、隠れた場所に「キルスイッチ」などの盗難防止装置を取り付けることも役立つ。それよりも良い方法は、アップルのAirTagなどの追跡装置を取り付けたり、GPSを使いスマートフォンやパソコンで車両を遠隔監視できる「テレマティクス」システムを利用することだ。