経済・社会

2023.09.10 11:30

ドラマ「VIVANT」 謎の部隊「別班」 優秀な工作員の条件は円満な夫婦関係にあり

Photo by Michael Buckner/Variety via Getty Images

では、「優秀な別班員」とはどういう人だろうか。ドラマのように、外国語を流暢に操り、百発百中の射撃術で敵を追い詰める能力が必要なのだろうか。内情を知る人物は「いやいや、ドラマみたいに国際テロ組織を追いかけているわけではありませんから。外国語も射撃も、優秀かどうかを判断する必須の条件ではありません」と語る。
advertisement

別班は非公然組織だから、別班員になると自衛隊駐屯地には立ち入らない。自衛官が定期的に行う射撃訓練も受けられないから、射撃の腕は上がらない。別班員は陸上自衛隊情報学校(旧小平学校)で、朝鮮語や中国語、ロシア語などの語学を学ぶ。でも、通訳業務などをやらない限り、「ペラペラ」のレベルにまで達するのはなかなか難しいという。

内情を知る人物によれば、好奇心が強くて、柔軟性があって、家庭生活が円満な人が、別班員として活躍するのだという。「自衛官は普段、集団生活をしています。別班員になると、突然、組織から切り離され、ひとりぼっちになるわけです。何より、身分を偽装するわけですから、生真面目な人間は違和感を持ちます」

別班に配属された後、悩んだり、不安を訴えたりする人が少なからず出てくるという。こうした人は1年くらいで、情報保全隊や別の情報関係の部署に異動することになる。逆に、柔軟性があって好奇心も強ければ、特殊な環境にも耐えていける。別班員は、現地で情報を収集する人に指示を出すハンドラーとしての役割を持っている。自分たちの意図を正確に理解してもらわないと、良い情報は取れない。「最終的には、自分の身分も明かして、意図を伝えることになります。相手と強い信頼関係がないと、良い仕事はできません」
advertisement

じゃあ、「円満な家庭生活」って何だろう。内情を知る人物が言う。「いくら家族に秘密にすると言っても、バレバレなんです。昨日まで毎日、迷彩服を泥だらけにして帰ってきていたのに、突然、私服で出勤するようになります。短い髪も伸ばし始めます。おかしいと思わない方がおかしいでしょう」。ただ、こうした仕事の秘密を抱えている人は、別班員に限らない。潜水艦の乗組員は任務の内容はもちろん、何日くらいの航海になるのかも家族に漏らせない。出がけに「今度はちょっと長く留守にするから」と言う程度だという。

それでも、家族は信頼関係があれば支えてくれる。「別班員も同じです。ちょっと情報関係の仕事をしてるけど、細かく言えないんだ、くらいで察してくれる家族がいれば、安心して仕事に打ち込めます」。この人物によれば、仕事ができる別班員ほど、口が固くなるという。「自分の仕事に満足しているわけですから、誰かに訴える必要はないわけですよ」

現役の別班員たちも毎週、ドラマを楽しみに視聴しているという。

過去記事はこちら>>

文=牧野愛博

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事