健康

2023.09.10 11:00

広がる「こどもホスピス」運動 9歳で旅立った、佐知ちゃんの夢

佐知ちゃん、9歳の誕生日 入院先の病院を出て、家族らが盛大にお祝いした

子どもが、命にかかわる病や障害を負ってしまったら、その日から一家の日常は一変する。闘病する本人だけでなく、両親やきょうだいも、嵐に巻き込まれる。いま、全国各地で設立の動きが起きている「こどもホスピス」は、終末期のみとりの施設ではなく、本来の「子どもらしさ」「家族らしさ」に浸れるところ。ワクワクできる体験を得られる場だ。

今年4月にNPO法人になった「愛知こどもホスピスプロジェクト」(事務局・名古屋市名東区)では、医療関係者や患者家族らのメンバーが、5年後の施設設立を目指して奮闘している。その情熱の源になっているものとは何か、2回に分けて紹介したい。

初回は、一昨年5月に9歳でお空へ旅立った愛知県江南市の安藤佐知ちゃんと、こどもホスピス運動に尽力する母・晃子さん(46)ら一家の物語。

クリスマス前、9歳のお誕生日会で

2020年のクリスマス前。急性リンパ性白血病で名古屋大学附属病院(名古屋市昭和区)に入院中だった佐知ちゃんは、外泊許可を得て、同市のヒルトン名古屋に家族と来ていた。

難病の子の願いをかなえる活動をする公益財団法人メイク・ア・ウイッシュオブジャパンが、佐知ちゃんのリクエストを受け、同ホテルの全面協力を得て実現した9歳の「お誕生会」だった。

眺めのいいコネクトルームで、お祝いの食事を楽しんだ。がんの痛みが強く、もうほとんど食べられなかったけれど、シェフ特製のかわいいお子様ランチに目を輝かせ、少しだけ口に運んだ。

本番はその夜。水色のドレスに着替えた佐知ちゃんを車いすに乗せ、宴会場のドアを開けると、バージンロードのような花道が、奥に向かって伸びていた。両側には、誕生会の企画に携わったホテルスタッフ約40人が並び、一斉に拍手を始める。花道の先のテーブルには、9本のろうそくを立てたホールケーキ。

「佐知ちゃんがわずかな時間でも幸せな気持ちになれるように」と、前夜から会場を飾りつけ、準備した。メイク・ア・ウイッシュの担当者も知らされていないサプライズの演出だった。
ホテルからのサプライズ演出も

ホテルからのサプライズ演出も


当時、小学校6年生だった兄・正輝さんは「幸せな時間でした」と振り返る。

「スタッフの皆さんの笑顔をまぶしく感じました。病室にいるときの佐知も、病棟の小さい子たちの世話をしているとき、同じように笑っていたことに気づきました」

自分はほとんど食べられないのに、ウーバーイーツでピザを注文して、配ったりするのが好きだった妹。共通するのは、自分がだれかの役に立てるという喜び。後に、こどもホスピス設立に取り組む人たちと出会って、正輝さんは「同じ笑顔だ」と思った。
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文=安藤明夫

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