音楽

2023.09.10

AIが制作した楽曲はグラミー賞の対象となるのか

Iljanaresvara Studio / Shutterstock.com

ドレイクとザ・ウィークエンドの音楽スタイルを忠実に模倣した、人工知能(AI)が生成した楽曲が、グラミー賞ノミネートの対象となっている。そんなことが可能だとは思えないかもしれないが、グラミー賞を主催するレコーディング・アカデミーのCEO、ハーヴィー・メイソン・ジュニアは、ニューヨーク・タイムズに「この曲は人間によって書かれたので、完全に適格だ」と語っている(その後同CEOは、ドレイクとザ・ウィークエンドの声を模倣したAIによる楽曲がグラミー賞の選考対象になるという自身の発言を撤回している)。

この曲「Heart on My Sleeve」は、匿名のアーティストであるGhostwriterによって制作された。この曲は、そのキャッチーさと、曲の中の声がドレイクやザ・ウィークエンドの声に驚くほど似ていることから、4月にすぐに話題になった。

「Heart on My Sleeve」が初めて登場したとき、多くの人々は、これが2人のアーティストからの未発表のデモ曲のリークだと考えた。しかし、間もなくGhostwriter自身によって、彼自身が実際に作成したこと、そして曲のクレジットに名前のある2人のスターたちはその制作に関与していないことが明かされた。

現在、このAI生成曲は、 最優秀ラップ楽曲賞と年間最優秀楽曲の2つのグラミーカテゴリーに提出されている。これらのカテゴリーは、パフォーマーではなく、ソングライターに焦点を当てているため、少なくともこの初期段階では適格とみなされている。Ghostwriterは曲の中の歌詞を実際に書いたが、パフォーマンスはコンピュータで生成されたものだ。

YouTubeやSpotifyのような音楽ストリーミングサービスで最初に公開された際には「Heart on My Sleeve」はユニバーサル・ミュージックからの「取り下げ要請」と呼ばれる通知によって、即座に削除された。だが、一部のプラットフォームでは配信が見送られたにもかかわらず、インターネット上では瞬く間に拡散した。YouTubeなど一部のサイトでは、聴きたいファンが聴けるようになっている。

バラエティは「Heart on My Sleeve」がライター要件としては適格であるかもしれないが、グラミーのノミネーションを獲得するためには、最も一般的なプラットフォームで広く利用可能である必要があると指摘している。レコーディング・アカデミーや、その曲の背後にいるミュージシャンが、この潜在的な障害をどのように取り扱うのかはまだ明確でない。

もし「Heart on My Sleeve」がグラミー賞にノミネートされた場合、同賞、そして音楽業界全体にとって大きな転換点となるだろう。レコーディング・アカデミーは今年初め、AIの助けを借りて創作された曲も受賞の対象となることを明らかにしたが、創作の一部には人間が関与している必要がある。

メイソン・ジュニアは数カ月前にバラエティに対して次のように語っている「レコーディング・アカデミーは、AIコンピュータそのものやAIにプロンプトを出しただけの人物にノミネートや賞を与えるつもりはありません、それこそが私たちが区別しようとしている点なのです。これは人間の創造性によって、卓越性を際立たせる、人間のための賞なのです」

forbes.com 原文

翻訳=酒匂寛

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