食&酒

2023.09.09 17:00

種火と吹子|岩佐十良×小山薫堂スペシャル対談(後編)

Forbes JAPAN編集部

老後に向け変わってきた心情とは?

小山:日本国内で「この地で何かやってみたい」という場所はありますか。

岩佐:自分がやるかどうかは置いておいて、新潟から東北は未開拓資源の塊だと思います。素晴らしき自然環境と、そこに暮らす人々との間に特別な繋がりを感じる。小山さんはどこかありますか。

小山:別府です。良質な温泉もさることながら、「地獄蒸し」といわれる、ざるにのった野菜、肉、魚を温泉の蒸気で蒸す料理が絶品で。いい料理人があの地にレストランを構えたら、世界でも類いまれなる店になるんじゃないかなと思います。

岩佐:鉄輪温泉の「Otto e Sette Oita」とか。

小山:あ、ご存じでしたか。日本の温泉総湧湯出量と源泉数は世界一を誇りますが、その日本における1位は別府温泉郷。しかも別府八湯のひとつである鉄輪に集中しているんですよね。ヴェネツィアが「水の都」だとしたら、この世あらざる「温泉の都」は鉄輪ではないか。僕、老後は風呂屋をやりたいんです。自分の理想とする、オーベルジュならぬ、“風呂ベルジュ”を、鉄輪でつくれたら楽しいだろうなって。岩佐さんは老後の夢はありますか?

岩佐:僕は欲望が年を取るごとに薄れてきた気がしていて(笑)。実はこれだけ宿を手がけながら、自分の家を建てたことがないんですよ。死ぬまでに一度は建てたいなと思っていたけれど、最近はそれもいいかなと。いまは山で過ごす時間が貴重ですね。日帰りで行ける山にあえて一泊すると、日中はたくさんの人で賑わっていた山が、夜は人っ子一人いなくなる。そこから朝までの時間がたまらなくいいんです。

小山:確かに物欲より体験欲のほうを切実に求めるようになりますね。

岩佐:今度新潟にいらしてください。雪解けの新緑がそれは見事で、桜も同時に咲くんです。この美しい世界を毎年見るために僕は新潟にいるんだと思います。

今月の一皿


「中華シブヤ」の人気メニュー「ニラ玉」を再現。しゃきしゃきのニラと豚バラ肉を炒めた上にふわりと半熟卵焼きがのる。

blank


都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。


岩佐十良◎1967年、東京都生まれ。自遊人代表取締役。武蔵野美術大学在学中にデザイン会社を創業。2000年、雑誌『自遊人』を創刊。04年、新潟・南魚沼に移住。雑誌、農産物販売、宿泊施設の経営などを通して、地方都市の地域活性化にも尽力する。

小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わり、2025年大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務める。

写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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