この機体はNASAのアルテミス計画において、クルーを月面へ送る着陸機に選定されており、アポロ計画から半世紀ぶりとなる有人月面探査の成功の鍵を握る。当初マスク氏は「同機の開発費は100億ドルに達する可能性がある」と発言していたが、昨今の進捗を見るとその予算は大きく超過しそうだ。
宇宙開発史におけるマイルストーンとして期待されるスターシップ。その開発は現在どこまで進み、月着陸予定の2025年までにどんな課題が残されているのか?
1回目のテストフライトは爆発、2回目は9月中に実施?
2023年4月に行われた1回目の打ち上げテスト(SpaceX)従来のロケットや宇宙船と比べてスターシップが特異な点は、ロケットの第2段そのものが巨大な宇宙船になっていることだ。想定されたスペックとしてスターシップは100トンまたは100名のヒトを軌道上へ打ち上げるが、スペースシャトルのペイロード(積載物)が27トン(定員3名)、アポロ計画のサターンVが月まで45トン(3名)だったことを考えれば、その輸送能力がいかに高いかが理解できるだろう。
ただし、2023年4月20日(UTC)に行われた1回目のテスト打ち上げでは、第1段に搭載された33基のエンジンのうち6基が停止。上昇中に機体の制御不能となり、高度40kmで指令破壊され、大西洋に沈んだ。
次のテストでは準軌道に入り、地球を1周したのちにハワイ沖へ着水することを目指す。実施日は9月8~15日の可能性が高い。
2機のスターシップにNASAは40億4000万ドル
月面に着陸するスターシップのイメージ図(SpaceX)NASAは2025年に2名のクルーを月面に着陸させる。アルテミス3と呼ばれるこの計画では、その着陸機としてスターシップが選定されている。
同プランの手順としては、まずはスターシップを無人状態で打ち上げ、月を周回する軌道に乗せる。その後、クルー4名を乗せた宇宙船オリオンを打ち上げて、月周回軌道上でスターシップとドッキングさせる。2名のクルーがスターシップにトランジットして、オリオンから分離。スターシップと2名が月の南極へ着陸する。
さらに1週間後、月を1周したオリオンが同じ上空(軌道上)に戻ってくると、スターシップはタイミングを合わせて月面から上昇する。月周回軌道上で再度オリオンとドッキングして、クルーはオリオンで地球へ帰還。スターシップ1号機は無人のまま月周回軌道を回り続け、おそらくそのまま破棄されるが、着陸機としてのスターシップは将来的には再利用されるはずだ。