ソムリエコンクールは世界大会を見据え英語で行われ、決勝では、観客が見守るなか、勝ち抜いた上位4選手が舞台上で難易度の高いサービスやテイスティングの課題を制限時間内にこなしていく。今回筆者は、仮想客として審査に関わり、各選手のパフォーマンスを間近で見る機会を得た。張り詰めた空気の中、これまで培ってきたものを出し切る選手たちの姿は清々しく、また感動的だった。
その中でも、滑らかな立ち回りと周りへの配慮でサービスパーソンとして群を抜いていたのが、優勝した野坂氏だ。今回で6度目の挑戦。20代後半に初めてソムリエコンクールに出場し、この時は予選敗退だったものの、同世代の仲間が優勝する姿に刺激を受け、努力を続けてきた。
3回目の出場で準優勝まで迫るが、4回目は3位、そして前大会では6位に順位を落とし、「やめようかと思った」と野坂氏。それでも優勝するまで踏ん張ったのは、「終わった人になるのが嫌だった。そして、自分のチームのソムリエたちが出場するのに、先輩として背中を見せないと説得力がないと思った」からだ。
今大会、野坂氏が勤務するマンダリンオリエンタル東京からは、若手の池田大輝氏と山本麻衣花氏も出場し、全員がセミファイナルまで進むという、チームとしても快挙を成し遂げた。自身を「プレイング・マネージャー」という野坂氏だが、忙しい仕事の合間に、皆でテイスティングの特訓をするなど切磋琢磨し、また後進を育ててきた。優勝発表が行われた直後、舞台袖で、上司である野坂氏の勝利をチーム皆で喜んでいる姿が印象的だった。
今大会では、現世界チャンピオンのレイモンズ・トムソンズ氏をゲストとして招聘し、また、初めてアジア・パシフィック地区の招待選手が参加し、国際的な装いとなった。
優勝の熱も冷めやらぬ中だが、野坂氏は既に、2025年に開催されるアジア・ パシフィック 最優秀ソムリエコンクールに焦点を当てている。今回の全日本優勝者として出場権を得たが、「最大かつ最後のチャンスとして万全の準備で臨む」と意気込む。
今大会の総指揮を担当した日本ソムリエ協会副会長で、日本代表チームのコーチ役でもある石田博氏は「コンクールの目的は順位をつけることで、やはり勝つことに意義があります。負けると、これまでの自分を全否定されたような気持ちになり、とてつもなく悔しく、失望します。しかし、目標に向かい、犠牲を払い、同じ志をもつ人たちと切磋琢磨し、研鑽を積む。何よりコンクールを機にそんな同士と繋がりを持てるのは、成功以上に素晴らしいことで、コンクールのような競技ならではの大きな意義になるのです。」と語る。
1995年に、日本人として初めて田崎真也氏が世界最優秀ソムリエコンクールで優勝して以来、世界王者は出ていない。日本のソムリエのレベルの高さは国内外で認知されているが、今後世界を舞台に、日本のソムリエが栄冠を手にする姿を見るのを心待ちにしている。
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