防空網を引き剥がされたロシア軍の戦車や補給トラックは、TB-2の格好の獲物だった。TB-2は「キーウ周辺ではロシア軍の装甲部隊多数を攻撃し、損害を与えた」とクーパーは当時報告している。「南部ではヘルソン空港や、ミコライウを包囲していた(ロシア軍)部隊に大規模で正確な砲撃を加えた」
TB-2はロシア軍のいくつかの野戦本部にもミサイルを撃ち込んだ。効果は非常に大きかった。「TB-2はロシア側を極度の不安にも陥れている」とクーパーは書いている。「TB-2によってたった数両失っただけで、ロシア軍(の大隊)全体が向きを変えて逃げ出している動画をいくつか目にした」
ロシア側も反撃し、侵攻から半年でTB-2を少なくとも12機撃墜した。とはいえ、ウクライナ側には製造元のトルコのバイラクター社から機体が安定して(全面侵攻後、最初の1年間で少なくとも35機)供給されたため、TB-2部隊は戦闘を続けることができた。
経費は安くなかっただろう。制御装置と6つの機体で構成されるTB-2の1ユニットは最大1億ドル(約147億円)する。
ロシア軍がキーウから撤退し、半年後には東部ハルキウ州や南部ヘルソン州からも退くと、戦線は安定した。ロシア軍は1000kmにわたる前線で防空網を急いで増強した。
こうなると、飛行速度の遅いTB-2が生き残るのは難しかった。「態勢を整えたロシア軍は多数のTB-2を撃墜できた」と米シンクタンク海軍分析センター(CNA)のアナリスト、サミュエル・ベンデットはネットメディアのインサイダーに述べている。ロシア軍はこれまでに、ウクライナ軍が運用するTB-2の3分の1ほどにあたる少なくとも24機を撃墜、もしくは地上で破壊している。
昨年末、ウクライナ軍はTB-2を後方に引き下げ、主に、接触線の自軍側の哨戒任務に当たらせるようにした。これにより、おおむね危険からは遠ざけられた。より危険な、ロシアの大隊上空での任務には、爆発物を積んだ小型のFPV(1人称視点)レーシングドローンを使い始めた。
FPVドローンは1機5000ドル(約74万円)程度と安価な半面、航続できるのはオペレーターがいる場所から数kmの範囲にとどまる。また、基本的に1回きりの使い捨ての使用になる。より深部を攻撃目標とし、繰り返し運用するドローンとしては、やはりTB-2のほうが優れている。しかし、再建されたTB-2部隊による攻撃再開に適した条件が整ったのは、ようやく今月に入ってからのことだった。