劇作家・寺山修司が構成を担当しTBSドキュメンタリー最大の問題作といわれた『日の丸』。街頭インタビューの手法を再現した番組を撮った佐井大紀(29歳)が感じたいまの日本とは。
編集部:初監督映画『日の丸〜寺山修司40年目の挑発〜』は、かなり尖った作品でした。
佐井さん自らが「日の丸といったらまず何を思い浮かべますか?」「日の丸の赤は何を意味していると思いますか?」と、街行く人にマイクを向けて矢継ぎ早に質問していく。
佐井:この手法は僕のオリジナルではなく、1967年にTBSで放送された『現代の主役 日の丸』を下敷きにしたものです。構成は寺山修司。『現代の主役』はいまで言うと『情熱大陸』みたいな番組で、岡本太郎や円谷英二といった当時の注目人物にフォーカスする番組だったんです。
ところが寺山は「日の丸」を主役にした。しかも初の建国記念の日の直前の放送。この時に「日本とは何か?」を公共の電波で流すなんて挑発的ですよね。
──いまから半世紀以上も前の番組を、どうやって知ったんですか?
佐井:新人研修で観たんです。そして強烈な「居心地の悪さ」を感じました。突然質問された人の言い淀む顔、困惑する表情。テレビというのは視聴者にわかりやすく、シュガーコーティングされた番組を提供すべきとされているのに、このJホラー的な得体の知れない不穏さは何だろうと。こうした人間の本質を垣間見せるような番組を、いつか作ってみたいと思っていました。
──なぜ現代において、わざわざ議論の起こりやすい「日の丸」をテーマに?
佐井:オリジナル版はオリンピックから3年後、万博を3年後に控えた1967年に放送されました。これっていまと同じ状況だと気づいて、同じ構成で番組を作り「日本とは何か、日本人とは何か」という大問題に対する現代人のムードを探ってみようと思いました。
──そのムードをどうとらえましたか?
佐井:天皇や差別といったタブー視されているものに対して無関心であるどころか、無関心であることに無自覚な人々の時代なんだと感じました。1967年バージョンでも僕の2022年バージョンでもマイクを向けられた人たちは質問に対してよどみなくしゃべります。ただ67年当時の人は戦争体験をもつ人が多く、例え戦地に赴かなくとも戦意高揚のため日の丸を振った人もいる。なので、誰もが日の丸に対しての実体験があり、沈黙を含めた実感のこもった言葉があるんです。
ところが現代の人たちは日の丸や日本というものに対して言葉は出てくるんだけれども、どこか模範解答的で、外部からインストールされたものを吐き出している感じ。それが「無関心に無自覚」な態度のように映りました。