キューバと米国間の関係の雪解けが始まった。この動きはオバマ大統領が昨年12月に歴史的決断を下す以前から、密かに進行していた。現状のキューバでは米国のクレジットカードはほぼ使えないが、Airbnbは今年4月にキューバに進出し、既に2000を超える賃貸物件を抑えている。また、ハバナ出身の28歳、ロビン・ペドラジャは昨年3月、キューバの若者文化を紹介するオンラインマガジンを開始した。
彼の雑誌「Vistar」は目を引く写真を掲載し、流行りの音楽や芸術、バレエ、おいしい食事や有名人を詰め込んだ。驚くべきはキューバではごく少数の国民しかインターネットにアクセスできない国でありながら、オンライン雑誌が成立したことだ。キューバでは一般家庭にインターネットを引くことができない。ホテルでの接続は1時間で7ドル(860円)という法外な値段を取られる。
数万から数十万いるとされるVistarの読者はそのデータをUSBメモリやHDDで共有している。これは、言わば人力のデータ共有によるインターネットと言える。それに加え、米国などの国外からのアクセスも多い。ペドラジャの会社は10人を越えるスタッフを抱え、彼らに広告ビジネスで給料を払っている。キューバでは政府以外の広告ビジネスは、50年間もの間、ほとんど存在していなかった。ペドラジャは言う。
「我々はキューバが近代化するのを待っていられないんだ。自分たちで工夫しながら、前進し続けるんだ」
この動きを進めているのはキューバのミレニアル世代だ。彼らは共通の大志を抱いているが、政治には関心が無い。彼らが熱望しているのは、インターネットへのアクセスと国際的な経済システムに参加することだ。キューバで始動したスタートアップをいくつか紹介しよう。
レストラン紹介アプリ「AlaMesa」
27歳のヨンダイナー・グッティエレーズはグルメ情報アプリ「AlaMesa」を作った。現状ではクレジット決済が使えないため、国外の人々がデジタルギフトカードをキューバ人のために購入する仕組みを整えようとしている。厳しい状況ではあるがグッティエレーズは「事を成すためには全ての創造性を絞り出すことを強制されるんだ」と述べている。
携帯電話修理店「La Clincial Del Celular」
ハビアー・アーネスト・マトス・ソトは元計算機科学の学生で"La Clincial Del Celular"という携帯電話の修理店を経営している。彼はキューバで成長しているオフラインアプリのAlaMesaやRevolico、Isla Dentoなどの端末へのインストールも代行するほか、中古端末の販売も行っている。修理に使う部品や端末は米国へ旅行する友人たちから入手している。ハバナの旧市街で彼の店の競合はたった一店舗。政府が運営する携帯ショップがあるが、そこでは1つのモデルのみが売られているだけだ。
宅配レストラン「Niuris Higueras」
キューバの起業家たちはニウリス・イゲラス(Niuris Higueras)のようなビジネス・オーナーに憧れている。彼女は1990年代後半からずっとフードビジネスに身を置き、最も成功した私営レストランAtelierを経営している。Atelierは主に外国人向けのケータリングサービスを行い、旅行サイトのTripAdvisorでは非常に高い評価を誇っている。現在の従業員は15名。「キューバの開放政策はもう後戻りできないところまで来ている」と彼女は言う。
旅行者向けタクシー会社「Nostalgic Cars」
Nostalgic Carsのオーナー、フリオ・アルバレスは事業運営のため、キューバの厳しい法律と米国の禁輸法と戦ってきた。彼は4年前に1台のヴィンテージ・カーを改装することから始め、それ以来、22台のクラシックカーを購入し、苦労してレストアしてきた。彼は妻とともにタクシー会社を運営している。部品のほとんどは米国からスーツケースに入れて運んでくる。税関で見つからないように部品をコカコーラのボトルに入れて運び込んだりもする。「このような制限のある中で、ビジネスをすることがどれだけ大変か。誰も想像できないだろう」と彼は言っている。
「Airbnb」への物件提供事業
アレハンドロ・ポーティーレスとネリー・フィグエリードはAirbnbに築200年の歴史あふれる部屋を3件登録している。Airbnbが始まる以前は別のオンラインサイトに広告を載せていた。キューバの多くの人たちと同様、彼女達にはインターネットへのアクセス手段が無い。そのため彼女らはサード・パーティに部屋の広告を依頼している。キューバでは米国のクレジットカードが使えないため(今年3月から規制緩和が始動)、アメリカ人がカードで払った代金は地元の送金業者が間に入り、オーナーのもとに現金で届く仕組みをとっている。