それとも、植田総裁ら日銀トップは、33年ぶりの高値を記録した日経平均株価を台無しにする責任を取りたくないのだろうか。さらに、黒田氏から総裁を引き継いだ直後に、日銀の大盤振る舞いが、多すぎるセクターの多すぎるアセットクラスの安定を支えていることに植田総裁は気がついたのかもしれない。そして「パンチボウル(カクテルの「パンチ」が入った容器。「刺激策」のこと)」を取りやめるとほのめかすことすら、できないのではないか。そうして植田総裁は、数百兆円に膨らんだパンチボウルに、手を休めることなく中身を継ぎ足しているわけだ。
そうこうしているうちに、世界経済は次へと進み、米国はここ数十年で最も積極的な引き締めサイクルを終えようとしている。この件については、2023年8月末の経済政策シンポジウム「ジャクソンホール会議」で検討された(世界の中央銀行総裁や学者などが、米ワイオミング州ジャクソンホールに集まる毎年恒例の経済シンポジウム)。欧州中央銀行、イングランド銀行、オーストラリア準備銀行、韓国中央銀行はすでに金利を正常化している。
中国人民銀行はというと、各国中央銀行のなかでは特異な存在だ。不動産業界が危機に見舞われ、銀行の不良債権問題で揺れた1990年代の日本と似た状況であるにもかかわらず、中国人民銀行は量的緩和政策を避けて通っている。
世界第3位の経済大国である日本が、利上げどころか「テーパリング(量的緩和策による資産買い入れ額を徐々に減らしていくこと)」に踏み切る準備すらできていないと日銀が考えているのだとしたら、海外の投資家が日本の見通しを信頼できるだろうか。
日本の量的緩和政策がずっと続くとみなされるのは、メリットよりもデメリットの方が大きい。穴をさらに掘り進めてしまうと、植田がのちに後悔することになるのはほぼ間違いないだろう。
(forbes.com 原文)