研究を行った動物保護団体ポーラーベアーズ・インターナショナル(PBI)の科学者らによると、ホッキョクグマの生存率は海氷の量に大きく左右される。ホッキョクグマは海氷を利用して狩りをするが、海氷が溶けると餌となる獲物の少ない陸地に追いやられ、長期間にわたり餌がとれなくなるからだ。
通常、ホッキョクグマは長期にわたって絶食しても生き延びることができる。しかし、海氷の融解が進んでいるため、一般的な期間よりも長く絶食を強いられていると研究は指摘する。
絶食期間が長くなるほど、ホッキョクグマの体重は減る。毎日1キロ近く減少し、母グマは子グマの面倒を見たり母乳を与えたりできなくなる。そうなれば、子グマが生き残れる可能性は低くなる。成体になれる個体数が減れば、種は絶滅に近づく。
今回の研究では、温室効果ガスを排出する個々のプロジェクトによって海氷の融解がどれだけ進行し、それがホッキョクグマの個体数減少にどの程度寄与しているかを定量化することに成功したという。ただし、ホッキョクグマには12の地域個体群があり、それぞれ異なる生態域(エコリージョン)に生息している。排出量が生存率に及ぼす影響は生息域によって異なる。
たとえば、温室効果ガスの一種である二酸化炭素(CO2)が24.1ギガトン排出された場合、成体になるまで生き残れるホッキョクグマの個体数は、シベリアとアラスカに挟まれたチュクチ海の地域個体群では2.7%減少し、カナダ北東部ハドソン湾西部の地域個体群では0.6%減少することが今回の研究からわかった。
ホッキョクグマは2008年、世界の生息数が21世紀半ばまでに3分の1に減少するとの予測が発表されたことを受け、人為的な気候変動の影響で米絶滅危惧種法(ESA)に基づく絶滅危惧種に指定された初の動物となった。ESA第7条は、内務省が資金提供や認可を行うプロジェクトについて、ホッキョクグマなどの絶滅危惧種の存続をこれ以上危険にさらさないことを保証しなければならないとして手順を定めている。