「見た目に傷つけたりはされてないけど心の傷は何カ所もつけられてるよ」──。家庭内のトラブルや家族間の慢性的な苦しみを抱える少年少女が集う掲示板「gedokun」には日々、家庭環境に悩む若者の心の声がつづられている。
厚生労働省によると、2022年の日本の小中高校生の自殺者数は500人超だった。原因や動機を見ると、いじめよりも家庭問題の割合が多い。家庭環境に問題がありながら既存制度の支援対象には該当しない少年少女たち。彼らの自立を遠くから支える第3の存在として活動するのがNPO法人第3の家族代表の奥村春香だ。
第3の家族が扱うサービスは主に4つだ。1つは、公的支援から身近な頼れる人まで、新たな居場所を見つけるための手札をまとめたサイト「nigeruno」。2つ目がコミュニティサイト「第3の部活」で、家庭環境に悩む少年少女がさまざまな理由をきっかけに集まる機会を生み出す。3つ目は、家庭環境に悩む人たちへの調査データを基に問題を可視化したデータサイト「家庭環境データ」。そして冒頭の掲示板「gedokun」だ。
どうすれば少年少女たちを絶望させずにすむか。その方法の端緒として、奥村は複数の選択肢を見せることの大切さを説く。「情報はひとつの武器です。手札の数が多いほど困ったときに対処できたり、将来のプランを立てられたりします。複数の手段を見せることで自分にとっての正解を見つけてもらいたい」
「私や弟はなぜ救われなかったのか」
奥村自身も家庭環境に悩んだ当事者のひとりだ。20年、家庭環境の問題が原因で弟が自死する。弟の死を経て、世の中には家庭環境に苦しむ子どもを支援する制度やNPOが存在することを知ると同時に、「私や弟はなぜ救われなかったのか」と思ったという。その数カ月後、法政大学デザイン工学部に在籍しながらリリースしたのがgedokunだった。
「ユーザーの方から、『ここなら自分の気持ちを素直に言えます』といった言葉をたくさんもらって、これが私の生きがいだと思いました」
少年少女が今日すぐに使えて、彼らの日常が変わる実用的なサービスをつくりたい。その思いからつくったのが各種サイトだった。22年に大学を卒業し、LINEの社内デザイナーを務めながら活動を続けた。同年末には「2022年度グッドデザイン・ニューホープ賞」の最優秀賞を獲得。23年3月に第3の家族をNPO法人化した。
「家庭環境問題は多くの社会課題につながっていますが、はざまの人への施策はなされてきませんでした。私がここに取り組むことで、自分の居場所はほかにもあると思ってほしい。家庭環境が理由での子どもの自死をなくしたい」
おくむら・はるか◎1999年生まれ。自身の経験をきっかけに、学生時代から「第3の家族」の活動を始める。2022年にグッドデザイン・ニューホープ賞で最優秀賞を受賞。23年にNPO法人化。デザイン、マネジメント、エンジニアリングの統合的な視点で運営や設計、開発を行う。
*着用衣装:ジャケット 119900円、パンツ 91300円 (アイシクル/アイシクル 伊勢丹新宿店 03-5315-0778) トップス 31900円(サヤカ デイヴィス/ショールーム セッション 03-5464-9975) ネックレス 99000円、リング 286000円(ともにトーカティブ/トーカティブ 表参道 03-6416-0559)