プリゴジン氏の死と中国の水産物禁輸、鬼舞辻無惨の手法を使う独裁者たち

Photo by Vladimir Alexandrov/Anadolu Agency via Getty Images

最近起きた最たる事例が、中国政府が8月24日に決めた日本の水産物に対する全面禁輸措置だ。この措置について「予想外だ」という声が、日本政府内の一部に上がったという。中国が日本に対話の姿勢を強調していた事情があったからだ。中国は最近、2019年12月から中断していた日中韓首脳会談に応じる姿勢も示していた。7月14日、ジャカルタで林芳正外相と会談した中国外交トップの王毅共産党政治局員も、処理水問題に多くの時間を割いて日本を批判する一方、問題を何とか解決したいという前向きの姿勢もみせたたという。8月18日にあった日米韓首脳会談を批判した中国国営通信新華社の評論も「日韓は米国の覇権の駒になるべきではない」という「米国主犯論」を展開していた。

しかし、これもロシアや北朝鮮と同じ、中国のストーブパイプが招いた現象だという。中国では、軍や政府機関などが、習近平国家主席に対する忠誠競争を繰り広げている。相互の政策調整が足りないため、しばしば、矛盾した行動が起きるようだ。中台関係などに詳しい東京大学東洋文化研究所の松田康博教授は「習近平政権は対外政策における戦略性や柔軟性を失っていますから、こうしたちぐはぐな対応が多くの領域で繰り返されています」と語る。松田氏は「中国による全面禁輸措置は、中国のCPTPP(米国をのぞく環太平洋連携協定)への加盟申請や、日本からの投資促進にはマイナスですが、それらは別の部門が担当しているので、積極的な働きかけを続けるはずです」と指摘する。

相手がバラバラな動きを仕掛けてきたら、どうなるか。答えは「ドベネックの桶」にしかならない。バラバラな長さの板片を集めて作った桶では、一番短い板片の高さまでしか水をためることができない。せっかくの日中関係改善の動きという「長い板」も、「全面禁輸」という関係を悪化させる「短い板」に効果を消し去られてしまうだろう。松田氏は「全面禁輸の問題は長期化するでしょう」と語った。

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文=牧野愛博

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