「地上資源」でNYSE上場へ 世界中の企業が提携を求める「希望の星」

岩元美智彦

鉄骨とパイプがむき出しのプラントを背景に表紙の撮影をしていると、JEPLAN(ジェプラン)の岩元美智彦会長はこう笑った。「ベンチャー企業がこんなデカい工場をもったらいかんでしょう」。

とはいえ、同社は年内にニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場する見通しだ。ソニー、ホンダ、トヨタ、MUFGなど現在上場している日本の10社はすべて大企業。そこに、2007年に創業した中小ベンチャーである同社が続けば、日本経済にとって歴史的快挙である。

同社傘下のペットリファインテクノロジー社のケミカルリサイクル工場(川崎市)は世界最大級で、東京ドーム1個分が収まる広さをもつ。2交代制24時間稼働で、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を使ったボトル、いわゆるPETボトルを化学処理し、「ペレット」と呼ばれる再生PET樹脂の小さなかたまりを製造している。飲料メーカーはこのペレットを購入し、新たにPETボトルをつくるのだ。PET樹脂の生産能力は年間2万2000tにも及ぶ。

JEPLANは川崎工場以外にも北九州市に、同じくポリエステルから服に使う再生ポリエステル樹脂を製造する北九州響灘工場を運営している。こちらは繊維用で生産能力は年間1000tに達する。アパレルメーカーは、この樹脂を原料とした糸を使って衣類をつくることが可能だ。いま、そのJEPLANに世界から投資だけでなく、50を超える工場誘致や提携話が舞い込んでいる。

JEPLANのケミカルリサイクル技術(BHET法)により、ポリエステル繊維から再生されたポリエステル樹脂。製造に必要とされる石油資源の使用削減のほか、CO2排出削減にもつながる。

JEPLANのケミカルリサイクル技術(BHET法)により、ポリエステル繊維から再生されたポリエステル樹脂。製造に必要とされる石油資源の使用削減のほか、CO2排出削減にもつながる。


ふたりで描いた「世界平和」の道筋

2007年に岩元が高尾正樹社長とふたりで計120万円を出して創業したJEPLAN(旧:日本環境設計)が世界から注目を集める理由。それは単なるリサイクル企業とは違い、「地上資源」をつくる「仕組みの会社」だからだ。

同社はPETボトルやポリエステル繊維を再生するPETケミカルリサイクル技術に関連した商用プラント事業や技術ライセンス事業だけではなく、服やメガネ、携帯電話、おもちゃのリサイクルに携わるほか、回収した服から服をつくる「BRING」ブランドで回収・リサイクル・製品の製造や販売まで手がけているのだ。そして、それを実現するために、産業横断的に国内外の企業と連携しながら、製品を循環させるプロジェクトの企画や運営をするマーケティング企業的な側面ももつ。

なかでも、不要な洋服を店頭で回収するプロジェクト「BRING」には、23年4月の段階で197ものブランドが参加しており、回収拠点は4299カ所もある。参加企業は無印良品やMUJIブランドを展開する良品計画やパタゴニアなどのアパレルを製造するブランドのほか、高島屋や大丸、松坂屋といった百貨店なども含まれている。

こうした不要になった衣類を回収するネットワークをはじめ、独自技術のライセンシングはもちろん、工場敷設・運営のノウハウ、アパレルブランドの展開が評価され、22年8月には投資会社のベイリーギフォードやMPower Partners、東京海上日動火災保険などから24億4000万を調達している。「取引相手から『JEPLANは何がやりたいんですか?』と聞かれます」と、岩元は楽しそうに話す。「僕らは、“地上資源”を循環させたいだけです」

PETやポリエステル繊維は石油からできている。PETボトルやポリエステル繊維100%の服などを高品質かつ半永久的にリサイクルできるようになると、それまでは「ゴミ」だったものが新たな「地上資源」として使えるようになるのだ。地上資源を循環させられたら、CO2の排出量を減らせるうえ、地下資源をめぐる戦争やテロを減らし、平和な世界をつくれるかもしれない─。それが岩元の思いである。
次ページ > 服を原料にクルマが走る“妄想”

文=フォーブスジャパン編集部 写真=池田直人

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事