1. 提案された争いは、現代を反映している
シリコンバレーでは、ライバル関係は決して珍しいものではない。パソコン時代をかたちづくった、スティーブ・ジョブズ対ビル・ゲイツの衝突にまつわるエピソードの数々を思い出す人もいるかもしれない。しかし、マスクとザッカーバーグの確執が焦点を浴びたのは現代だ。つまり即時の満足感、リアルタイムの更新、そしてソーシャルメディアプラットフォームの遍在を特徴とするデジタル時代のことだ。これは、単なる役員室内での戦いではなく、ツイートやミームを駆使した争いであり、そしてここへ来てフィジカルな競技が提案されたというわけだ。
彼らの争いの場として総合格闘技(MMA)が選ばれたことも、現代という時代の精神を強調している。MMAは、彼らが支持する技術革新と同様に、伝統と現代性の融合だ。それは生々しく、台本がなく、非常に魅惑的だ。予測不可能でペースの速いテクノロジーの世界を映し出している。
MMAという若いスポーツが成長し進化し続けるにつれ、人々は「オクタゴン(八角形の金網リング)の中で2人の人間が戦う」という暴力的なイメージについては鋭く感じることがなくなってきている。そして、全面的な乱闘ではなく、真剣勝負のスポーツであることを示す、より細かなディテールを評価するようになってきている。
例えば、2021年に行われたMMAと、メンタルヘルスやウェルビーイングとの関係についての分析を見てみよう。主流メディアはしばしばMMAを、暴力の触媒になり得るものとして描くが、MMAの愛好家や実践家は規律やレジリエンス(柔軟な耐久力)、自制心、自己成長など、より深い価値を探求している。
それらはすべて、人間が健康な存在であるために重要な側面だ。アマチュアの柔術家であるザッカーバーグはおそらく、マスクよりもさらに繊細な意味合いを理解しているだろう。マスクの方は、この提案の余興的または衝撃的な価値をアピールすることに主眼を置いているように見える。
とはいえ、テクノロジー界における世界有数のリーダー2人がケージの中で決着をつけるという大胆さは、今日の相互接続された世界におけるポップカルチャーやテクノロジー、スポーツのあり方を凝縮して示しており、それがこの提案が世界を魅了する理由となっている。