ビジネス

2023.08.30 07:30

世界最大「化粧品の巨人」とタッグ 日本発の新興が描くコスメの未来

コスマックスジャパン代表の魚在善とWackerCOOの鹿田将斗(撮影=曽川拓哉)

イヴサンローランやグッチなど多数の高級ブランド化粧品や韓国メーカーのコスメを製造している「コスマックス」という企業がある。1992年に韓国で創業した同社は、化粧品メーカーに向け、 商品企画から製造までを行う世界最大の化粧品OEM・ODM(設計・製造受託)企業だ。国内外に800人以上の研究員を抱え、毎年数々の新しい処方を生み出している。いわば化粧品界の巨人だ。
 
そのコスマックスが8月8日、日本のマーケティング支援会社「Wacker(ワッカー)」との業務提携を発表した。
 
Wackerは、2019年に創業した5期目の企業。日本や韓国の大手スキンケアブランドを中心に取り扱い、短期間で売り上げを拡大するマーケティングノウハウに定評がある。
 
両者が提携した目的とは何か。コスマックスジャパン代表の魚在善(オウ・ジェソン)、WackerCOOの鹿田将斗が、今回の提携について語り合った。

コスメ商品開発の全工程を一気通貫

──まず提携の目的を聞かせてください。
 
鹿田:今回の提携は、化粧品の企画、製造、販売、マーケティングといった全工程を、一気通貫で支援できるようにするというのが狙いです。コスマックス側で商品企画や製造を、我々がその後の過程を担い、このパッケージを化粧品メーカーに提供します。

現状、化粧品メーカーでは、それぞれの工程を自社でやるのか他社に任せるのかという意思決定に時間がかかり、スピード感を持った商品の生み出しがしにくいという課題があります。特に日本メーカーでそれは顕著です。
 
私は韓国や中国の化粧品メーカーのマーケティング支援を手がけてきましたが、外から見ると、日本の化粧品メーカーは保守的で新しい商品開発などに二の足を踏む傾向があります。このままでは世界市場でのプレゼンスを失ってしまう。こうした危機感を持っていて、今回のような枠組みを考えました。
 
:我々としては、日本に恩返しをしたいという思いです。コスマックスは1992年創業で、創業者のイ・ギョンスは当時、日本から開発技術や処方、原料などを取り入れたことで、世界最大の化粧品OEM・ODM企業にまで成長しました。2021年にはコスマックス・ジャパンを設立しましたが、それも恩返しのひとつと言えます。

日本メーカーがトレンドから取り残される理由

──韓国化粧品をよく見かけるようになりました。日本と韓国で、化粧品業界の違いとはどのようなものでしょうか。
 
鹿田:日本市場は、新しい成分や処方に懐疑的。いざ新商品を作ろうとしても「リスクがある」といった理由を並べ、時間がかかりがちですよね。
 
:日本には韓国化粧品のブームが到来していますが、その理由のひとつに、韓国は革新的な成分や処方を積極的に試す文化や素地があるからと言えます。商品開発期間を比べてると、日本企業では基本的に2年以上かかるところ、韓国は短ければ3カ月から半年以内です。
 
そもそも、化粧品業界はトレンドが年2回ほどのスピードで移り変わるほど、変化の激しい業界です。流行り出してから開発をしていては、新商品が店頭に並ぶ頃にはトレンドはすでに過ぎ去っています。トレンドに乗るためには、変化や失敗を恐れずにトライアルしていくことが重要です。
 
鹿田:日本企業はいまだ強いブランド力があるので、韓国化粧品に人気を奪われ始めていることについてあまり気に留めていないという問題もあります。開発期間の違いをはじめ、日本企業は数年間にわたって後手を踏む構図になっているため、抜本的に全てを変えていく必要があります。


:とはいえ、韓国化粧品が日本市場に完全に入り込んでいるとも言えません。新大久保など韓国文化が浸透している地域では店頭に多く並んでいますが、日本の雑貨チェーンなどにも流通している韓国ブランドは、実はまだそんなに多くありません。
 
日本企業の課題を挙げましたが、韓国企業にも改善すべき点はあります。多く見られるのは、自社商品に絶対の自信を持っていること。韓国では、“いい商品であれば売れる”という方程式がありますが、その考えは日本では通用しません。今回の提携による一気通貫が企業にもたらすメリットは、日本にとどまらないんです。
次ページ > 攻めのマーケティングにも前のめりな韓国企業

取材・編集=露原直人 文=小谷紘友 撮影=曽川拓哉

ForbesBrandVoice

人気記事