平服での参列やペットの同席を可能にするなど、一般的な式場葬とはちがい、自宅だからこそ生まれるリラックスした雰囲気のなかで故人を見送ることができる。むじょう代表取締役の前田陽汰は、ある自宅葬での出来事を、次のように話す。
「犬が読経中も同席して、お花入れのときにも仏さんをなめていて。すごくあたたかい空気のお葬式で、『故人は犬が好きだったから、一緒に見送れてよかった』とご家族には言ってもらいました」
一方の「葬想式」は、故人を追悼するウェブサイトを無料で作成できるサービスだ。サイトは四十九日や命日などに合わせて、3日間限定で公開が可能。SNSやメールを通じてサイトへ招待された参加者は、故人との思い出の写真やメッセージを投稿することで、しのぶ気持ちをオンラインで共有できる。過去には、海外に住む親族や友人が亡くなり、物理的に葬儀へ参加することが難しい場面で利用されるケースもあった。
さらに、亡くなった母、父に向けて書いたメッセージを展示する「死んだ母の日展」・「死んだ父の日展」、棺桶に実際に入って写真を撮ることで自身の死を体感する「棺桶写真館」といった企画を開催。身近な人の死、自らの死について、日常的に考える機会を生み出している。
これらの取り組みに一貫するのは、死との対峙を通じて人々に「無常観」を醸成しようという、前田の思いだ。
「右肩上がりの成長が求められる現代において、成長一辺倒だと、いつかハードランディングしてしまう。衰退や死と付き合えるメンタリティも必要なのではないかと。終わりをひとつの変化ととらえる無常観を通じて、変化に優しい社会にしていきたい」
まえだ・ひなた◎2000年生まれ。島根県の隠岐で過ごした高校時代、住民との交流をきっかけにNPO法人ムラツムギを設立。19年、慶應義塾大学総合政策学部へ進学。20年、むじょうを創業し現職。*着用衣装:シャツ 35200円、中に着たシャツ 35200円(ともにオーハル / ジョワイユ)