金融企業のニューヨーク離脱は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック以前から続いている。こうした企業の経営者たちは、かつてはコスト削減のため数千人の雇用を他の州へと移してきた。
ブルームバーグがまとめた企業情報1万7000社のデータによれば、総額9930億ドル(約145兆円)の資産を運用する金融機関158社が、フロリダ、ノースカロライナ、テネシー、テキサスなど物価の比較的安い州に拠点を設け、積極的に人材を雇用している。
金融企業の集団撤退
クレディ・スイス、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、バークレイズ、UBS、シティグループ、アライアンス・バーンスタインなど、大手金融サービス企業は続々と低コスト地域への移転を進めている。ウェルズ・ファーゴも、テキサス州アービングに高層ビル2棟を擁する総面積7万9000平方メートルのキャンパスを建設する計画に投資しており、2025年に完成した暁には従業員数千人が勤務する予定だ。ヘッジファンドを経営する億万長者で生粋のニューヨーカーであるポール・シンガーとカール・アイカーンは、パンデミックの最中に事業をフロリダ州に移転させた。州所得税がなく、温暖な気候に恵まれ、企業向けの優遇措置を受けられることが決め手となった。
投資銀行モーリスのケン・モーリス最高経営責任者(CEO)は2020年、同社の従業員たちがニューヨークを離れてフロリダ州に移りたがっているとブルームバーグに語っている。社員の要望に対しモーリスは、こう答えた。「わが社の事業は人材で成り立っている。世界で最も優秀な人材を引き寄せ、やる気にさせ、引き留めたい。その人材がフロリダで働きたいと望むのなら、わが社もその地で彼らをサポートする」
アーク・インベストメント・マネジメントのキャシー・ウッドCEOも2021年、フロリダ州セントピーターズバーグに会社を移した。同州の「人材、革新的精神、生活の質」が自社の「成長イニシアチブ」を加速させると感じたからだ。
同年、非営利経済団体パートナーシップ・フォー・ニューヨーク・シティーが「大規模雇用主」を対象に行った調査では、金融サービス企業の約4分の1がニューヨーク市内での人員削減を5年以内に予定していることが明らかになった。