2016年、スマートフォン登場以降の「現実」を、旧石器時代の洞窟壁画を通して検討する「iphone mural(iPhoneの洞窟壁画)」展を企画。19年には同じくiPhoneを起点に、情報化社会における芸術のありかたを問うた論考「新しい孤独」を発表した。
コロナ禍に突入して間もない2020年の4月には、「ひとりずつしかアクセスできないウェブページ」を会場とし、詩人の水沢なおとの二人展「隔離式濃厚接触室」を企画。21年には、映像作品《名前たちのキス》で、需要が急増したマッチングアプリをテーマにとりあげた。
インターネットカルチャー興隆期の体験
世相にスピーディに反応しながら、現代を生きる人間のありようやコミュニケーションを表現する布施の思考と表現の出発点は、中学時点に遡る。初代iPhoneが発売され、pixivやTumblr、Twitterといったウェブ・プラットフォームが興盛したタイミングだった。「当時はゲームブログを書くことやMAD動画を作ることにはまっていて。アクセス数やコメント数を増やすために見出しを工夫したり、画像編集ソフトを使ったり、総合的にメディアを駆使した経験が、今の僕の批評と作品制作を並行するスタイルの原体験になっています。その過程で、アニメ制作会社のガイナックスやボーカロイド・カルチャーなどの、ファンダムとクリエイターが一体化した同人的なムーブメントに憧れるようになりました」
高校時代には、「学校中のもの好きが集まる」という放送部に入部。それまでは吃音や声変わりにより喋ることが苦手だったが、発声練習やラジオドラマの制作を重ねるうちに、気づけば言葉を使った表現に夢中になっていた。
「言葉っていうのは、なんて自由なんだろうと。文章を書くこともしかり。あらゆる歴史上の出来事を、自分なりの仕方で要約したり、並べ替えたりできる。それまで喋るのが苦手だったからこそ、ひとりの人間が、ひとつの世界のイニシアチブを持てる可能性に病みつきになりました」
将来の職業としてはゲームやアニメ業界に興味を持つも、「大友克洋や宮崎駿のように絵がうまくない」という自覚と、「2010年において、同人が集まって社会にインパクトを与えうるのは現代美術なのではないか」という考えから、東京藝術大学に進学。「自分の名前がクレジットされた作品を早く世に出すためには……」と考えを巡らせていた。