アート

2023.08.31 08:30

僕はアーティストです。布施琳太郎がその肩書きにこだわる理由

鈴木 奈央
学部1年生の終わりに、友人たちと最初の展覧会を開催。変化の早い時代に「名前を覚えてもらうため」に、学部生時代には月に2回というハイペースで展覧会を開催することを自らに課した時期も。「青」を戦略的に使い始めたのもその頃だ。

「お金も場所もなかったから、公園や自分の家が会場になることも。でも、会期・場所・タイトルをまとめたプレスリリースさえ作れば、どんな空間でも展覧会と認識されることに気がつきました。また、成功しているアーティストたちの作品を見ると、モチーフとか描き方で、ぱっと見て誰のものかが分かる。当時の僕にそんなことはできなかったので、それなら色で世界観を示すか、と。それ以来、何かを買うときは青を選ぶようになりました(笑)」
「名前たちのキス」(2021、写真=Kioku Keizo)

「名前たちのキス」(2021、写真=Kioku Keizo)


「ポエム」や「オナニー」だって褒め言葉になりうる

卒業後も濃度を上げながら、自らの作品を発表する個展や、企画者となって主催するグループ展を次々と開催。「皆んなが情熱を発揮できるプラットフォームを作ることが楽しい」と言う布施は、アーティストという職業を「歴史をつくる仕事」と定義する。

「歴史とは、繰り返さない出来事の積み重ね。マリー・アントワネットがいたとか、江戸時代があったとか。江戸時代は繰り返さないけれど知っておくことには意味がある。僕がひとりのアーティストとして責任を持つべきだと思うのは、今の時代だけの、この先二度と繰り返さないかもしれないたった出来事の感覚を、歴史の1ページとしてかたちに残していくことだと思うんです」

例えば、布施がかつて夢中になったブログプラットフォームのTumblr。大手企業が買収し、性質が変わり、そこで過ごした時間や感覚は次第に忘れられていく。こうした事象に対し、「エゴかもしれないけれど、ある時代のなかで大切だったはずの時間を見逃さず、本質的な部分を自分なりに解釈し、展覧会や作品などに落とし込んで保存すること」を大切にしている。

ほかにも、人を好きになったり、誰かを傷つけてしまったかもしれない経験。そういった個人的な感情や反省をアートのなかで語るのは社会的とされない現代で、「ひとりくらいはそういう思いを表現にのせる人がいてもいいんじゃないか」と考える。

2022年に開催した個展「新しい死体」(PARCO MUSEUM TOKYO)では、それを具現化すべく、主催者を説得し、渋谷のスクランブル交差点の街頭ビジョンで、自身がしたためたラブレターを毎日太陽が沈む瞬間に上映した。

「最近のアートでは、ポエムやオナニーといった言葉が悪口のように使われています。成熟していない、思慮が足りないといったニュアンスですね。でも調べていくと、そういった抑圧にも歴史的な理由があるわけです。自分が活動することで、言葉のネガティブな印象が変わって褒め言葉になったら嬉しい」
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文=菊地七海 編集=鈴木奈央 スタイリング=千葉 良(AVGVST) ヘアメイク=KUNIO Kataoka(AVGVST)

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