ポッカサッポロフード&ビバレッジと農業・食品産業技術総合研究機構の研究チームは、4ミリ厚にスライスした牛もも肉をレモン果汁100パーセントの液に1時間漬け込んだものを、何もしない肉と比較する実験を行った。それぞれの肉を同じ条件で焼き、次の3つの解析を行った。
ひとつは肉の構造的変化。肉を加熱するとタンパク質が収縮して固くなる。組織を色分けするマッソントリクローム染色で構造の変化を調べたところ、筋細胞の収縮によって肉汁が細胞の外に漏れ出す割合が、レモン汁に漬け込んだ肉では少なくなっていた。
次は物性の変化、つまり固さだ。総合的な食感を測定するテクスチャーアナライザーにかけたところ、レモン果汁に漬け込んだ肉のほうが小さな力で噛み切れることがわかり、柔らかくなっていることが確認された。
そして胃消化性。胃消化シミュレーターで消化試験を行ったところ、レモン汁漬け込み肉のほうが3時間後に胃の中に残る割合が25パーセント少ないことがわかった。肉の場合は少々長くなるが、胃に入った食物は通常3時間ほどで細かく分解され、幽門を通って十二指腸へ送られる。大きな塊は幽門を通れずに胃に留まる。これが「未消化」の状態だ。胃もたれの原因にもなる。つまり、レモン汁に漬けた肉は、25パーセント消化がいいということだ。
安い肉をおいしく食べる庶民の知恵として生まれたバーベキューのマリネには、根拠があった。バーベキューではなくても、特売の輸入牛肉を柔らかくする技としても応用できる。研究グループは、レモン果汁2対オリーブオイル1のマリネ液でも結果は同じだったと話している。肉料理ではレモンではなく酢を使うことが多いが、レモンのクエン酸と酢の酢酸との効果の違いは、残念ながらこの実験では明らかにされていない。ビタミンCなど、レモンの他の成分も影響しているかもしれない。料理好きにとって、むしろそこは試し甲斐のあるところだ。
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