「技術と出合った当時、そこは変人の集まりだったと思います」(兄・西田宏平)
千年持続学──西田宏平は一風変わった名の学問に名古屋大学大学院で出合う。化石燃料に代わるエネルギー、有機農法等の技術を座学だけでなく、農家を巡り、学んだ。「千年持続性を考えるとき、課題は1000年先でなく10年先にある。次でなく我々世代の課題」と教え込まれた。「学問に触れ、まさに転換点にいると感じて。そこにつながる仕事がしたかった」(兄・西田宏平)
土壌微生物の培養技術とも大学院で出合った。もみ殻や畜糞などの未利用バイオマスからバイオ炭をつくり、独自技術で微生物を培養し「高機能土壌改良剤」をつくれる。食料生産の持続可能性に資する素晴らしい事業になると、大学院時代からサービス化を画策。100人の農家、企業担当者にヒアリングするも「誰がこんなの買うんだ?」と返答は散々だった。それでも西田宏平は就職後もコツコツと準備を進めた。兄と同じく名古屋大学大学院で研究の道を進む弟・西田亮也ら仲間を集め、2020年2月に起業した。
相手にされなかった技術にも追い風が吹く。20年から急きょ、食料生産領域にも脱炭素の流れがきた。食品会社に大量の未利用バイオマスがあり、加工工場でも食品廃棄物が常に発生。化石燃料由来の肥料を使う食料生産は環境負荷となる。大量廃棄、GHG(温室効果ガス)排出ありきでしか食料を供給できていない現実があった。
解決策は農地の価値転換にある。食料を生産する農地をバイオマス循環、炭素固定の場所に変える。TOWINGが介在すれば、この大転換が可能だ。
バイオマスを高機能バイオ炭「宙炭」に──バイオ炭をつくるほど、「ウェイストマネジメント」(廃棄物の効率的な管理・再利用)になり、バイオ炭を適切に農地に入れるほど、「カーボンファーミング」(大気中のCO2を土壌に取り込み、GHG排出削減する農法)となる。
現状、バイオマスは焼却処分でGHG排出源か、堆肥になる。堆肥は農地に入れるが収穫量を下げることも多く、農家は入れたがらない。TOWINGはバイオマスを微生物培養技術でアップサイクルし、収穫量の上がる資材をつくる。すでに葉物系野菜生産では、化学肥料と同等コストで収穫量が上がる見込み。今後は病気になりづらく、GHG排出量を低減する改良を行う。
23年5月には8.4億円の資金調達を実施。今後は、バイオマス原料ごとに量産プラント化、25年まで日本国内10件、海外を含め27年には100件立ち上げる予定だ。すでにアメリカ、ブラジルなどから声がかかる。30年には宇宙での展開を目指し、挑戦を加速させる。
にしだ・こうへい◎TOWING・CEO。名古屋大学大学院環境学研究科修了。大手メーカーを経て、2020年2月TOWINGを、COO木村俊介と共同創業した。
にしだ・りょうや◎TOWIN・CTO。土壌研究者。名古屋大学大学院環境学研究科・博士課程在籍。国立研究開発法人農研機構での研究経験あり。