パンデミックの中でも音楽の灯火を消さなかった
2020年から長く続いた新型コロナウイルス感染症によるパンデミックを乗り越えながら、創作活動と真摯に向き合う上原の様子は2019年にスタートしたインスタグラムや、2020年から開設するYouTubeチャンネルなど公式ソーシャルメディアを通じて発信された。さらにパンデミックがきっかけとなって、多くのミュージシャンが創作や演奏の機会を暗中模索した頃、上原は2020年8月にブルーノート東京とともに「SAVE LIVE MUSIC」プロジェクトを立ち上げて音楽ライブの火を灯し続けた。会場では徹底した感染予防対策を図りながら、100本を超えるロングラン公演を実現したプロジェクトは無事2022年末にフィナーレを迎え、大きな成功を収めている。
その頃、上原は新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサート・マスターである西江辰郎を中心とするストリング・カルテットといっしょに結成した「上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット」のプロジェクトも併走していた。コロナ禍の中に上原が書き下ろした4つのパートからなる組曲『Silver Lining Suite(シルヴァー・ライニング・スイート)』を収録する同名のオリジナルアルバムは、ジャンルを超えて多くの音楽ファンに愛される上原の新たな代表作になった。
写真=樋口勇一郎
聴くたびに新鮮な物語に出会える『ソニックワンダーランド』
困難な時にも歩みを止めることなく演奏を続けることにより、音楽とは人々に勇気を与えるものであることを上原は証明してみせた。勢いはそのまま新譜の『ソニックワンダーランド』にも引き継がれている。上原がこれまで形にしてきたアルバムと比べながら本作を聴くと『ソニックワンダーランド』のサウンドには人間の心の奥底に漂う不安やわだかまりを吹き飛ばす、強い外向きのエネルギーが満ちていると筆者は感じる。