塚本大地にとって、商売はすぐそばにあるものだった。祖父母は、土地・不動産業などを営んでいた。塚本がはじめて、お客さんからお金を受け取ったのは4歳のころ。祖父母が管理する駐輪場の受付でのことだった。
9歳になると、カードゲームを始める。友達がどう強くなるかを考え、デッキを組み替える隣で、塚本はどう利益を出すかを考えていた。カード店では相場より安いカードに目を光らせ、大会が近所であると聞けば、利益が出るよう組んだ自作の販売パックを持参し、販売した。
2021年7月、27歳となった塚本はVtuberアプリ「IRIAM」をDeNAに譲渡。評価額は150億円。20代による大型事業譲渡は話題となった。
「やっているのは昔から変わらず、商売なんです。事業機会を見つけ、事業化して、伸ばす。多くの人を巻き込む以外は今でも変わりません」
塚本に言わせれば、規模は違えども、評価額150億円まで伸ばして売却した事業づくりも、幼少期からの商売の延長線上にあるのだろう。
塚本には領域を問わず、事業機会を嗅ぎつけ、伸ばす才覚があった。学生起業時の事業領域はパチンコ。「大きな市場か」「利益の出ている会社は複数あるか」「競合は新興ベンチャーでも勝てるレベルか」「ほかのベンチャーは参入しないか」という観点から選び、参入したパチンコ業界で見事に事業を伸ばした。
後に塚本が参入したのも、キャラクターIP、ライブ配信プラットフォーム、B to Bの事業開発と、毎回異なる事業領域。キャラクター事業は、26歳でバンダイナムコアーツへ、パチンコ関連のアミューズメント事業は、29歳でDMM.comへと譲渡した。
事業づくりは何よりも面白い──塚本は、見るものすべてに事業機会を探る「根っからの事業家」だ。事業機会を見つけ、多くの人を巻き込み、事業を伸ばしていく。その過程に熱狂を感じ続けてきた。
「仲間と事業だけを考え、突っ走る日々を経て、どんどん世界が広がっていくように感じます」
現在、MEDIXを経営する塚本はいま、何に関心を向けているのか。
「人々のより良い意思決定を実現するメディア産業のアップデートをしたいと思います。インターネットで、メディアの中心は、新聞や雑誌からGoogle上の文字メディアへ。2030年にはその中心は、YouTube上の動画メディアに確実に移り変わる。この大きなパラダイムシフトをかけ合わせていくことが面白い。領域は無限にあるからこそ、見定めていきたいです」
その目に映り始めた次なる好機。さらなる飛躍へ向けて。生粋の事業家は、虎視眈々と世界を狙う。
トップス58300円、シャツ154000円(ともにピーター・ウーhttps://www.peterwu.com)
つかもと・だいち◎MEDIX CEO。1993年生まれ。名古屋大学在学中の2015年、DUO(後のZIZAI)を共同創業。以後、事業買収5件と売却4件を経験。19年キャラクターIP事業をバンダイナムコアーツへ、21年IRIAMをDeNAへ売却。22年ZIZAI全株式をDMMへ売却し、MEDIXを創業。