研究開発にかなりの資金が流れ込むなかで、最先端を走る企業は、人間を対象とした臨床試験に向けて準備を進めている。こうした試験は、パーキンソン病やてんかん、うつ病などの症状の改善に関してこれらのインターフェースが持つ可能性を具体的に示すとともに、メカニズムの微調整を行うことを目的としている。
これらの技術は現在のところ、疾病症状の改善を目標に開発が進められているが、同じ技術を活用することで、膨大な情報に、これまでになかったほどの高速でアクセスすることも可能になるかもしれない。現状でもこの分野は、失われた能力の回復だけでなく、現状の認知機能をさらに強化することを視野に入れている。
つまりBCIは、我々の記憶や学習能力に革命的な変化をもたらす可能性がある。以下では、そうした応用事例の一端をご紹介しよう。
記憶や学習の能力を向上させる人工海馬
我々は現在、人間の脳が記憶を形成したり、記憶にアクセスしたりする能力の復活や強化に、BCIが役立つ可能性があることを理解している。最近の研究では、非侵襲式/侵襲式の両方に関して、BCIで人間の記憶能力を高めることが可能だとの説を裏づけるエビデンスが見つかっている。非侵襲式で最も有望なものとしては、経頭蓋磁気刺激法(TMS)や経頭蓋電気刺激法(TES)などがある。これらの技法はそれぞれ、磁場や電流を用いて、開頭手術を行なうことなく、脳の特定の部位を刺激するというものだ。
「Neuroreport」に掲載された有名な研究では、短期記憶と長期記憶を高めるTMSやTESの効果は、施術後数週間にわたって持続するとの結果が出ている。
一方、記憶や想起の能力を高める侵襲式のBCIに関しては、脳埋め込みチップ(脳に埋め込んで機能の改善を図る装置)が、広く注目を集めつつある。そのきっかけとなったのは、NeuralinkやBlackrock Neurotechといった企業の存在だ。
人間が長期記憶を形成する上で海馬が果たす役割を解き明かした画期的な研究では、ディープニューラルネットワークのような機械学習の技法によって、将来的に神経信号のエンコード(コード化)やデコード(元の信号復元)もできるようになる可能性があると指摘している。つまり、人工海馬(記憶を司る脳の部位である「海馬」を模倣するチップ)に脳を接続することで、人の記憶や学習プロセスの強化に向けた道が開かれるかもしれないということだ。
一例として、この論文の著者は、いつの日か、それまでに何も学んでいなくても、BCIを通じて、新たな言語を脳に「ダウンロード」することが可能になるかもしれないと述べている。
また、ある研究では、哺乳類の広範な種に、記憶をエンコーディングする類似メカニズムがあることを示した先行研究に基づいて、人工海馬がラットの記憶を高める可能性の実証に成功した。