マーケティング

2023.08.27 11:30

コース1択。チェンマイの「ノンアルバー」に学ぶ、尖ったビジネスの持続性

ノンアルコールバー「intangible」のオーナーを務めるキー

ノンアルコールバー「intangible」のオーナーを務めるキー

あえてお酒を飲まない生き方を意味する「ソバーキュリアス(Sober Curious)」が、世の中に受け入れられつつある。日本でも、一昔前と比べてノンアルコールドリンクにもこだわった飲食店が当たり前に見られるようになった。一方、アルコール抜きでビジネスとしての持続可能性があるのか疑問が残る。そのヒントとなる店が、タイ第2の都市チェンマイにあった。

週末限定営業、8000円のコース

タイの首都バンコクから北へ720キロ。城壁や寺院が美しい景観を織りなす古都・チェンマイは別名「北方のバラ」と呼ばれる。地元の人々の性格はオープン。物価はバンコクと比べて何割か低く、ローカルの食堂だと50バーツ(約205円)あれば食事ができる。街、人、物価。魅力にあふれた都市は、世界中の旅行者たちから愛されており、日本人にもファンが多い。
チェンマイの旧市街を囲む城壁と門

チェンマイの旧市街を囲む城壁と門


今回、筆者がチェンマイのノンアルコールバー「intangible(インタンジブル)」を訪問したのは、2023年7月。intangibleとは「無形」を意味する英単語で、ケンブリッジの英英辞典では「触れることも、正確に説明することも、正確な価値を与えることもできないもの」などと説明している。

店の公式インスタグラムには、詳しいシステムが記されていた。金・土・日のみの営業で、午後4時半と同7時スタートの回にそれぞれ最大5席の枠があるという。予約は必須。メニューは1種類のコースのみで、5杯のノンアルコールドリンクに4皿の小さなサイズのペアリング料理が付く。コース料金は1人1950バーツ(約8014円)。

「私たちのバーはアルコールメニューを提供していません。あらゆるアルコールドリンクの店内への持ち込みは禁じられています」との注意書きがあり、一層興味が膨らむ。一体、なぜこれほどまでにノンアルコールにこだわっているのだろう、と。

「西遊記」にインスピレーションを受けたカクテル

旧市街の中心部から東へ約2キロ。有名なワローロット市場の近くに店舗はあった。周辺にバーやレストランは見当たらず、夜の通りはひっそりとしている。店のことを知らなければ、筆者がこのエリアに来ることはなかったであろう。
暗闇に浮かび上がるintangibleの明かり。店の前の通りはひっそりとしている

暗闇に浮かび上がるintangibleの明かり。店の前の通りはひっそりとしている


ドアに近づくと、スタッフの男性が中から開けてくれた。予約している旨を伝え、2階に上がる。部屋に入ると、今度は整った口ひげと短髪が印象的な男性が笑顔で出迎えてくれた。intangibleオーナーの通称・キー(Key)である。

コースが始まるまで数分ほど時間があった。キーはその時間を使い、客同士を自然な形で紹介する。筆者のような「おひとりさま」にはありがたい心遣いである。
「お品書き」には素材名やカクテル名などが記されていた

「お品書き」には素材名やカクテル名などが記されていた

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文・写真=田中森士

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