日本経済の成長のために スタートアップを支援
監査・税務・アドバイザリーサービスを提供するプロフェッショナルファーム「KPMGジャパン」が主催する今回のピッチイベントの目的は、世界24カ国の予選を勝ち抜いたスタートアップが参加する世界大会「KPMG Private Enterprise Global Tech Innovator」の日本代表企業選出だ。各国の代表者は、地元メディア報道およびKPMGのコーポレイトチャンネルを通して公開され、認知度を高めることができる。この大会はKPMG UKが単独で開催していたが世界規模で行われるようになり、日本は2022年から参加。本イベントには、社会課題に直結する分野において最新のテクノロジーを駆使して事業展開する23社が名を連ねた。大学発ベンチャーがその大半を占め、技術力に長けた強者揃いとなった。
主催の中心となっているあずさ監査法人ではインキュベーション部を立ち上げ、スタートアップが価値を創造するための経営支援をし続けている。
インキュベーション部長の阿部博は、「ビジネス経験が十分ではない研究者の起業〜経営をサポートしたい」と、監査法人による支援の背景を語る。
また、大学発スタートアップの優良なサービスやプロダクトは、技術開発や事業拡大に時間がかかる傾向があるため、中長期的サポートが欠かせない。そのためには海外企業や投資家への認知度を上げる必要がある。「KPMGのようなグローバルファームが主催することで生まれる信頼がある」と阿部は言う。
当日は各社が5分間のピッチを行った。
脳MRI画像のAI解析と予防アプリにより、認知症にならない海馬体積の育成をサポートする「CogSmart」、農業用AIロボット「Adam」およびAIデータ分析ツール「Newton」を用いて、農業経営の高度化に取り組む「輝翠TECH」ら参加企業に対し、6人の審査員は、温かなエールを送りつつ、「今後はどういった事業展開を考えているのか?」「農業従事者の機器の買い替えタームは長いが、どういった戦略があるのか」といった鋭い質問を投げかけた。
また、本イベントでは、企業規模等で日本予選に出場できなかったものの今後活躍が期待されるスタートアップ企業9社による「KPMG Dream Pitch」も行われ、再生医療で大腿骨頭壊死の克服に取り組む「セルファクター」社に「KPMG Dream Pitch優秀賞」が贈られた。
ピッチ終了後、6つ(破壊とイノベーション、市場潜在力、顧客による採用、市場けん引力とマーケティング、長期的な潜在力、ピッチの質)の同等加重による審査基準に基づいて採点され、審査員が各賞を選出した。
今後の成長性が高い企業と認められた「あずさ監査法人インキュベーション賞」には、次世代エネルギーとしての成長性が評価され、小型アンモニア製造プロセスを開発する「つばめBHB」が選ばれた。
イノベーション創出が最も期待される企業へ贈る「Private Enterprise賞」は、カイコから難発現性タンパク質を生産してヘルスケアのソリューションに利用する「KAICO」社に贈られた。創薬だけでなく食品へも技術を応用できる将来性を期待されての受賞となった。
また、社外審査員3人が選んだ「審査員特別賞」は核酸医薬のひとつであるアンチセンス医薬を用いて難病の治療薬を開発する「リードファーマ」が受賞。新しい世界を切り開いてほしいと期待が寄せられた。
ピッチのレベルが高かった「プレゼン優秀賞」はAIを活用して社会インフラの運用計画最適化を支援する「ALGO ARTIS」に贈られ、審査員から「大企業が抱える構造的な課題へのソリューション提供となる」と評価された。
最優秀賞は東京大学発の宇宙スタートアップ「Pale Blue」
最優秀賞に選ばれ世界大会出場の切符を手にしたのは、水を推進剤にした小型衛星用エンジンを開発する「Pale Blue」だ。共同創業者兼代表取締役の浅川純は、これまで多くの小型人工衛星には推進機(エンジン)が搭載されておらず、ロケットからの分離後、軌道投入やその修正、離脱の際の衝突が回避できないなどの課題があったと指摘。
しかし、安全性・入手性・コストの3要件を満たす推進剤を用いた推進機が存在せず、同社はこの点に技術革新の必要性を見いだした。
開発した「水エンジン」は、水蒸気式を用いた推進機とマイクロ波と磁石で水プラズマをつくる「マイクロ波放電式プラズマ」を用いた推進機であり、浅川は「特に水プラズマに関する技術は特許取得済みであり、同社の競争優位性となっている」と説明した。
審査員から今後の展開について質問が挙がったのに対し、浅川は「技術の実証はある程度できており、量産フェーズに入る段階。品質を保った生産と販売体制の拡充が次のチャレンジ」と説明した。
さらに「創業時からグローバル進出し世界各地に顧客をもつが、投資家向けにもグローバルで認知度を上げていきたいと思い、本イベントに参加した。受賞は自信につながる。クリーンなエネルギー源による推進機を小型衛星に搭載することを当たり前にしていきたい」と世界大会への意気込みを語った。
「KPMG Tech Innovator Competition in Japan 2023」の目的とは
あずさ監査法人とKPMGジャパンプライベートエンタープライズセクターが連携してソリューションを提供し、優良スタートアップを支えるエコシステムを構築すること。その一環として、今ピッチが開催されている。
KPMGジャパン共同チェアマン/あずさ監査法人理事長の山田裕行はイベント冒頭挨拶で「日本発のグローバル企業が出にくくなっている。日本の成長、そして社会課題解決にはテクノロジーが不可欠。あずさ監査法人インキュベーション部は、スタートアップ企業を経理・財務・会計面や内部統制の観点からサポートしていく」と述べた。
受賞企業一覧
最優秀賞Pale Blue
あずさ監査法人インキュベーション賞
つばめBHB
Private Enterprise賞
KAICO
審査員特別賞
リードファーマ
プレゼン優秀賞
ALGO ARTIS
KPMG Dream Pitch 優秀賞
セルファクター
KPMGジャパン プライベートエンタープライズ
https://kpmg.com/jp/ja/home/industries/private-enterprise.html