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2023.09.01 11:00

御前会議でイノベーションは生まれない! SMBCグループのデジタル改革「3つの流儀」

三井住友フィナンシャルグループのCDIO(チーフ・デジタル・イノベーション・オフィサー)である磯和啓雄は、「銀行が情報の非対称性で商売する時代は終わった」と語り、ビジネスモデルの変革を目指して、デジタル領域のビジネスにも本格的に取り組んでいる。

同グループでは、デジタルソリューション本部の新中期経営計画で『Beyond&Connect』『Empower Innovation』と2つの方向性を掲げ、社内SNSで出たアイデアから新サービスを開発し、他業種のパートナーとの協業で非金融系のデジタル事業を作り出すなど、取り組みが実を結び始めているところだ。

イノベーションを起こし、新たな事業を生むための秘けつはどこにあるのか。メガバンクグループのデジタル戦略における現在と未来について、話を伺った。


1.現場のアイデアを拾い上げ、即事業化させる



「1度の会議で発表される新規事業のアイデアは4〜5本。儲かる・儲からないではなく、本当に価値を生むのか、社会が抱える課題を解決できるアイデアなのかを真面目に議論しています。みんな一緒になって白熱していますよ」

磯和CDIOが語るのは、月1回のペースで行われている「CDIOミーティング」の様子。新規デジタル事業のプレゼンが行われ、優れたアイデアにはその場で事業化のゴーサインが出るという、新ビジネス開発の要の場だ。賛同を得られたアイデアは最短で数カ月というスピードで事業化が実現する一方で、事業化が叶わなかった場合もブラッシュアップしての再挑戦が可能だ。

現場のアイデアを拾い上げる場として重要なCDIOミーティングにおいて、その場で事業化を判断できるポイントは予算の持ち方にある。

「例えば、ホールセール部門やリテール部門、海外部門などと分かれているなかで、デジタル事業のアイデアは複数の部門にまたがる内容であることが多い。デジタル事業より優先して予算を割かなければならないことは部門ごとにあるでしょうし、どの部門からいくら予算を出すか調整するなんてことになると、いつまで経っても事業化できません。CDIOミーティングでは、デジタル事業枠として予算を持っているので、事業化するまでの判断を早めることができるのです」



CDIOミーティングには、その名の通り、磯和CDIOが出席するほか、初代CDIOだった太田純CEOも同席する。“御前会議”のような雰囲気にならないのだろうか。

「御前会議ではイノベーションは起こせません(笑)。なので、そうならないように、すごく気をつけているんです。小さな部屋で開催するようにして、参加人数も絞ってできるだけコンパクトにして、みんなでワーッと意見を言える雰囲気になるよう意識しています」

2.優れたアイデアを生み出す環境を整備する


CDIOミーティングでは毎月さまざまなアイデアが発表されるそうだが、新規事業につながる優れたアイデアとそれ以外の差は、どこにあるのだろうか。

「アイデアを思いついたとき、『これは良いビジネスプランに違いないから、すぐ事業化したい』と、つい情緒的になりがちなんです。自分のアイデアに情熱を持つことは良いことですが、マーケティング的な観点でもきちんと考えるべきでしょう。事業としてうまく回すためには、素晴らしいアイデアかどうかだけではなく、市場規模の大きさや、どのくらいのパイを取れそうかを把握する必要があります。CDIOミーティングでは、発表されたアイデアに客観的な根拠を持たせるために、マーケティング会社を紹介することもあります」

その一方で、ビジネスが成功するかどうかは、事業化までのスピードも重要だ。まだまだ課題を感じていると謙遜しながらも、磯和CDIOはこう語る。

「マーケティングなどの調査は、ある程度ラフで良いと思っています。チャンスがあると感じたらやってみればいい。事業を始め、徹底的に取り組んだとしても、失敗することは少なくないでしょう。思い描いたようにうまくいかなかったら、ピボットすればいいんです。本気でやればやるほど、ピボットしなければいけないタイミングが見えてくるはず。大切なのは、1度でも失敗してしまったらアウトという空気を払拭して、『心理的安全性』を高めること。ピボットして別のチャンスを見つけることが大事ですし、実際ピボットさせている事業は多いです」



新たなビジネスを生み出すためには、事業化させるアイデアを判断する場と共に、アイデアを出すための環境作りも必要である。同グループでは、社内SNS「みどりの広場(通称・ミドりば)」発のアイデアから、マンション管理業界向けのデジタルサービスの事業化を実現。「ミドりば」が新規事業につながるアイデアの源泉の場として期待されている。

「『ミドりば』は、入行年や部署の壁を越えて、多様な視点から意見交換することで、新規事業のアイデアやビジネスの可能性をふくらませることができるのが革新的な点です。私自身はゼロからアイデアを考えることが得意ですが、銀行員全体からすると、ゼロから1を作るより、1から大きくするのが得意な人が多いでしょう。しかし、前者のような人材がいないからといって、事業化できるアイデアを生み出せないわけではありません。むしろ、後者のような人材が多い場合、きっかけとなるアイデアの種さえあれば、発想を広げて事業につなげることができるわけです。今回事業化したサービスも、ある営業担当者が『ミドりば』で問題提起したことを機に、多くの賛同や意見が集まり、事業化につながりました」

「ミドりば」では、多くの行員がオープンなコミュニケーションを積極的に行っており、今回に限らず、新規事業につながるアイデアを生み出す環境が整いつつある。

「たぶん、今の仕事を続けていって、例えば10年後もそのまま同じ収入が得られると考えている人は結構少ないんじゃないでしょうか。なので、チャレンジしようという機運が全体的に高まっているのだと。最近の若者は社会を良くしたいと本気で思っていますよね。その気持ちをうまく引き上げることが大事です」

社内SNS「ミドりば」では行員同士のコミュニケーションが活発に行われている

社内SNS「ミドりば」では行員同士のコミュニケーションが活発に行われている



既存の人材の強みを生かしつつ、柔軟に人事制度改革を行い、必要な人材の採用も実践している。磯和CDIOは以前、インターネットバンキングのUIを改修する際、総合職でありながら、2年間の有期契約という珍しい方法でウェブデザイナーを採用した経験も。外部発注という選択肢も考えられるなか、内製化に踏み切ったのはどのような理由からだろうか。

「単純に、銀行に詳しいデザイナーさんを全然見つけられなかったからです(笑)。銀行業務を知らない・興味がない人にデザインを考えてもらってもうまくいかないことはわかっていたため、銀行員にデザインスキルを求めるか、デザイナーに銀行のことをわかってもらうかのどちらかしかなかった。二択であれば後者だろうということで、採用しました。最初の頃は大変でしたが、銀行業務の理解度が上がるとデザインの勘どころが良くなったので、内製化したのは正解でしたね」

2年間に限定した有期の総合職という珍しい契約形態も、互いにwin-winの理由があったという。

「もともと銀行に興味がなかったデザイナーさんは、いつまでも銀行に身を置くつもりはなく、こちらからしても、同じ人間にデザインを頼み続けて鮮度が落ちてしまうのを避けたかった。なので、総合職でありながら2年間の有期契約にしたんです。メガバンクのインターネットバンキングのデザインに携わった実績を、ステップアップに活用してほしいという想いもありました。現在、DX人材の需要が高まっていますが、どのような人材を採用するかと同じくらい、どのように人事制度を設計するかも重要ではないでしょうか」

3.社長に必要なのは「ビジョンを描けること」


新規事業を生み出すことはゴールではなく、むしろスタート地点である。このタイミングで必要になるのが、事業を支える人材の発掘・育成だ。同グループでは、「社長製造業」と銘打ち、グループの新たな成長の柱となるような面白いアイデアに対して予算と人員を割り当て、担当者をその社内ベンチャーの社長に積極的に抜擢している。2023年7月に設立したグループ会社「BPORTUS(ビーポータス)」では、初となる社内公募で選出した社員を同社の社長に抜擢した。

社内公募の際には、なんと100人近くの応募があったという。社長ポストに興味がある人材が多いとはいえ、大手企業の会社員と新規事業の運営を行う社長では、求められるスキルやマインドが異なるように感じる。いったいどのようにして、社長にふさわしい人材を見つけ、抜擢しているのだろうか。

「社内公募では、年齢層は20代から40代まで、男性行員も女性行員も多く応募してくれました。みんなかなりやる気にあふれていましたね。銀行員は社長に向いていないように感じるかもしれませんが、私はわりと向いていると考えています。というのも、銀行員は会社の社長と会う機会が多く、話を聞いているうちに、社長がどのような視点で物を見ているかを自然と身につけていると思っているからです。社長ポストに抜擢する人材に求めているのは、ビジョンを描けるかどうか。どのようなビジネスプランをもって、どのようにマネタイズし、社会に貢献するか、周囲を納得させるストーリーを語れることが大切です」



アイデアを出すための環境の整備から、事業化を判断する場、事業を支える人材の発掘・育成と、新規事業開発の好循環が生まれているSMBCグループ。同グループおよびメガバンクの未来はどうなるのだろうか。

「メガバンクはそろそろメガバンク自身のことだけではなくて、社会全体を考えて動く時期だと思います。例えば、日本には地域金融機関が多く存在し、地域に根付いています。メガバンクがそれらと戦う必要はありません。メガバンクでも地域金融機関のサービスを提供したり、地域金融機関でもメガバンクのサービスが利用できるようにしたりして、金融のネットワークを広げることが日本全体の効率化につながる。『マルチバンクプラットフォーム』構想と呼んでいますが、絶対実現したいと考えています」

自身が所属する組織や業界だけでなく、日本全体を活性化したいという磯和CDIOの想いは強い。

「社会の血液を循環させる銀行を、きちんと機能させることで社会全体を動かすことができると思い、入行したんです。血液がうまく循環できないと、社会は死んでしまう。そうならないように、銀行を活発にすることが大事です。入行時はデジタルの仕事に就くなんて思っていませんでしたが、社会をより良くするチャンスをもらったと感じ、原点の想いに近づいている気がします。デジタルで社会をより良くする最後のチャンスと思いながら、日々本気で取り組んでいますよ」

いそわ・あきお◎1990年東京大学法学部卒。三井住友銀行に入行後、法人業務・法務・経営企画・人事などに従事した後リテールマーケティング部・IT戦略室(当時)を部長として立ち上げ、デビットカードの発行やインターネットバンキングアプリのUX向上などに従事。その後、トランザクション・ビジネス本部長としてBank Pay・ことらなどオンライン決済の商品・営業企画を指揮。2022年デジタルソリューション本部長、2023年より執行役専務 グループCDIOとしてSMBCグループのデジタル推進を牽引。


Promoted by 三井住友フィナンシャルグループ/text by 杉山大祐(ノオト)/ photograph by 栃久保誠 / edited by 水上歩美(ノオト)