バルカン半島モンテネグロ。2023年5月、特別なイベントが開かれた。イベント名はZuzalu。発案者は暗号通貨イーサリアムの生みの親ヴィタリック・ブテリンだ。技術の公共財や暗号資産の未来を考えるため、招かれた200人が2カ月寝食を共にし、日夜議論した。
CegaのCEO豊崎亜里紗も、招かれたひとり。彼女は、香港の金融機関でのトレーダー時代にイーサリアムと出合い、その分散化の思想に魅せられ、暗号通貨の世界にのめり込んだという。
「朝食を食べていると隣がヴィタリック。そんな場所です。朝食のテーブルでも、分散化のかなりテクニカルな議論をみんなでしました」
なぜ豊崎はこの場に招かれたのか。それはDeFiオプションという新興市場をけん引する起業家だからだ。「DeFi(分散型金融)」での取引は、民間や行政などの中央管理者を通さず、すべてブロックチェーン上で実施。その契約を自動化する「スマートコントラクト」こそ、革新の中核だ。豊崎のCegaは、オプション取引のひとつである「仕組債」をスマートコントラクト化する新技術を開発するWeb3企業。同社製品の累計取引量は500億円。DeFiの仕組債市場では、競合をはる かにしのぐ世界ナンバーワンだ。
「Web3はインターネットより公益性が高く、さらなる高みにあると思っています」
インターネットに国家からの自由はない。サーバーのある国から規制が入れば、途端にサービスは止まる。ブロックチェーン上ですべてが処理されるWeb3は、そうした介入と無縁。場所を問わず、平等に機会を提供できる可能性がある。
技術の力で、より平等な世界へ。仕組債のDefi化はその第一歩だ。豊崎は、既存金融で1口100万円以上であった仕組債を、技術で民主化。1円からポートフォリオに組み込めるようにした。
22年11月、Web3への信頼が揺らぐ事件が起きた。世界2位の暗号資産交換業者FTXトレーディングが経営破綻。CEOは顧客資産を投資会社アラメダ・リサーチへ流用した疑いで告訴された。アラメダと取引のあったCegaだが、この危機は好機となった。DeFi業界で手薄なリスク管理を徹底していたCegaは、他製品が大損を出すなか、すべての顧客資産を守ることに成功。技術、セキュリティ共に優れたDeFiとの世界的評判を得た。
黎明(れいめい)期の産業を導く、模範に──豊崎は、日本でWeb3規制改正のルールメイキングにかかわり、啓蒙に世界中のカンファレンスに登壇する。
「この公益性の高い技術を、世界にどう広げるか。まだ新しい市場なので、伸びるには誰かが見本にならないといけません。そうした存在になるのは、私たちの使命だと思っています」
とよさき・ありさ◎Cega共同創業者兼CEO。1993年生まれ。日本と中国で育ち、米ノースウェスタン大学へ。専門はコンピュータサイエンスと経済学。UBS証券香港(デリバティブトレーダー)、Google日本法人(検索サービス、AR事業のマーケティング担当)を経て、2022年Cegaを創業。