今回の安倍晋三首相の8日間にわたる訪米は、公式には「成功」であった。首相は、ボストンとハーバード大学、ワシントンDC、サンフランシスコとスタンフォード大学、ロサンゼルスで、アメリカ側ホストから温かく迎えられた。
実は、安倍首相に対する歓迎には、「公式」なものと「非公式」なものがあった。「公式な」歓迎には、オバマ政権が国内的にも(オバマケア、移民政策、人種問題)、国際的にも(イラン、イラク、シリア、リビア、イスラエル、北朝鮮、ロシア)、多くの問題を抱えているという背景があった。
これらの問題をかかえるなか、日本は、必要な支援をしてくれる貴重な同盟国であり、パートナーであると見ており、オバマ政権は、特に安全保障の分野において、安倍首相のとった措置を歓迎した。
すなわち、新しい安全保障戦略の策定、防衛予算の増額、国家安全保障会議の創設、特定秘密保護法の制定、武器輸出禁止の緩和、集団的自衛権の行使、日米間の防衛協力を促進するための日米安全保障指針の改定などである。
経済問題に関しては、安倍首相は改革派と見られているが、第1の矢(金融政策)と第2の矢(財政政策)に重点をおき、直近の日本企業の業績向上はあるものの、日本の持続可能な成長を確保するための第3の矢(構造改革と成長戦略)の成果はまだ十分ではない。首相が政治的リーダーシップを発揮し、近々環太平洋パートナーシップ(TPP)の合意に達することが、依然期待されている。
ワシントンDCでは、筆者は米政府から、安倍首相のために行われた3つの公式行事に招待された。バイデン副大統領とケリー国務長官主催の国務省での昼食会、オバマ大統領主催のホワイトハウスでの公式晩餐会、ベイナー下院議今長主催の上下両院合同会議での演説である。いずれにおいても、アメリカ側ホストは、安倍首相を温かく歓迎した。
「非公式な」安倍首相に対する歓迎は、187人の日本研究者が署名して5月5日に出された「日本の歴史家を支持する声明」に反映されている。本声明には、欧米の日本研究者が署名しており、「今年は、日本政府が言葉と行動において、過去の植民地支配と戦時における侵略の問題に立ち向かい、その指導力を見せる絶好の機会です」と述べている。外交的な表現になっているが、安倍首相に対して、村山談話と河野談話を超えるとともに、「慰安婦」問題を解決するための行動をとることを強く求めているのは明らかである。
この声明は、4月29日の議会の合同会議での安倍首相の演説に対する反応である。演説では、戦後の日米間の融和と、過去70年の間に培われた強固な二国間関係に焦点が当てられていた。首相の演説で、歴史について十分に触れなかったことを、多くの人は好機を逃したと感じたのだ。声明は、本年8月に出されると見込まれている終戦70周年の総理談話において、安倍首相が本件に触れ、その解決を図ることを期待して書かれたとのことである。
今回の首相訪米のアメリカ側の評価は、安全保障、経済、歴史といった、アメリカにとって優先度の高い3つの日本関連の問題に関して、10点満点中、安全保障は8点(沖縄の普天間問題はマイナス)、経済は6点(第3の矢の進展が遅く、TPPについて未だに二国間合意なし)、歴史については3点(本件を解決するための明確な言明なし)であった。
アメリカは、2016年に大統領選の予備選挙を迎える。年内に、沖縄、TPP、歴史に関して進展が見られるなら、日米関係はさらに良好なものになるであろう。